二〇一一年版防衛白書は中国の動向に強い懸念を示しているが、昨年定めた新しい防衛大綱が中国側に軍備拡張の口実を与えることになってはならない。専守防衛の国是を十分説明する必要がある。
一一年版は巻頭で東日本大震災での自衛隊と米軍の活動を紹介したほか、尖閣沖での中国漁船衝突事件など状況の変化や、新しい防衛大綱を初めて盛り込んでいる。
中国については、周辺諸国と利害が対立する問題をめぐって「高圧的とも指摘される対応を示すなど、今後の方向性について不安を抱かせる面もある」と指摘した。
東シナ海や南シナ海での海洋権益確保の動きを見れば、こうした指摘は妥当だろう。問題は、新大綱に基づく防衛政策の変化が、中国側に軍拡の口実を与えてはいないかということだ。
新大綱は、全国に部隊を均等配置する「基盤的防衛力構想」に代わり、機動性を重視した「動的防衛力」という概念を採用した。
ソ連崩壊で脅威が薄れた北海道から、中国の海洋進出が著しい南西地域に防衛力をシフトするのが主眼であり、国際情勢の変化に応じて配置を見直すのは当然だ。
白書は動的防衛力に関するコラムや一問一答を設けて詳述しているほか、周辺国には関係閣僚が国際会議の折に、新大綱の意図についての説明に努めてはいる。
とはいえ、新しい概念である動的防衛力は理解が難しく、国内外に浸透しているとは言い難い。
中国は先月二十六日に行われた日中防衛次官級協議で、動的防衛力に基づく南西諸島への陸上自衛隊部隊の配備や海上自衛隊による東シナ海での警戒・監視活動の強化に懸念を示したという。
こうした自衛隊の活動は、専守防衛の枠内で行われるのは当然であり、政府はその意図を中国側に繰り返し説明し、理解を得る必要がある。新大綱が曲解され、軍拡の口実にされる「安全保障のジレンマ」に陥ってはならない。
このほか白書では、米軍普天間飛行場について「代替施設を決めない限り、返還されることはない」という高圧的な記述は消える一方、米軍基地が沖縄県に集中する理由として米軍占領という歴史的経緯への言及が復活した。
こうした記述の変化は評価したいが、動的防衛力という新しい防衛政策に踏み出したにもかかわらず、普天間飛行場の返還問題では県内移設という従来方針に固執しているのは残念である。
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