巨大な防潮堤が津波で破壊された岩手県宮古市田老地区で、住民の漏らした言葉がずっと耳に残っていた。「防災無線で津波の高さは三、四メートルと流していたので安心してしまった」▼その程度なら、住民が「万里の長城」と誇る防潮堤が防いでくれるだろう…。安心感から高台への避難の動きが鈍くなり犠牲者を増やしたのなら、津波警報には大きな“落とし穴”があったといえる▼警報は、地震の規模や震源地から津波の高さや到達時間を予測し、地震発生の三分後をめどに気象庁が発表する。マグニチュード(M)8以上の規模になると、正確な規模を測定し三分以内に警報を出すのは困難という▼東日本大震災では、実際のM9・0ではなく、M7・9の速報値で計算したために、最初の津波の予想は「宮城六メートル」「岩手、福島三メートル」と発表された。四十分後までに「十メートル以上」に修正されたが、刷り込まれた情報の修正は難しい▼その反省から気象庁は新しい方針を打ち出した。M8以上が予想される東海、東南海、南海の三つの巨大地震に伴う津波では、発生直後から想定される最大規模の津波警報を出す▼事件や事故の取材で先輩記者から、「大きく構えろ」と教えられたことを思い出す。どうせ、たいしたことないだろう、という先入観は禁物だ。災害時にこそ大きく構える。多くの犠牲から学んだ教訓である。