<実るほど頭(こうべ)を垂れる稲穂かな>は、人格者ほど謙虚であるという意味の諺(ことわざ)だが、実際、秋になって実が詰まって稲穂が垂れなければその年は凶作である。収穫量を大きく左右するのは、穂が出始める今の時期の天候だ▼コシヒカリは穂が出ると、すぐ綿毛のような小さな白い花を咲かせる。最初は空っぽだったもみ殻は四十数日かけて成熟してゆく。この間、十分な日照時間と日射量、そして、昼夜の温度差が大きいことがうまいコメの条件となる▼実が熟さなくなるいもち病を誘発する恐れがあるのが長雨や低温だ。新潟や福島などのコメ農家にとって、数日続いた豪雨は心配でならなかっただろう▼前線の影響で記録的豪雨になった新潟県では、堤防の決壊が相次いだ。三条市など新潟県の十二市三町の約四十万人に避難指示や勧告が出され、約九千人が避難した。津波と同じように、自然が牙をむいたときの人間の無力さをあらためて思い知らされる▼上空のヘリコプターが映した家屋とともに濁流に浸っている田畑の映像に心が痛んだ。うまいコメの代名詞である魚沼地方の水田も被害が出ている。雨よ、やんでくれ、水よ、引いてくれと祈るような気持ちだ▼福島第一原発の事故で、東北や新潟、北関東の農家は、収穫時に放射性物質が検出される不安と闘っている。追い打ちをかける自然の気まぐれが恨めしい。