大ベストセラーで映画化もされ、社会現象になった『日本沈没』は一九七四年、日本SF大会のファン投票で選ばれる星雲賞の日本長編賞を受賞した▼そして、日本短編賞を受けたのが、筒井康隆さんの手になる、その作品の傑作パロディー『日本以外全部沈没』。<筒井さんは後に、紫綬褒章をもらうわけだけど、それはこの時、日本以外を沈めたからじゃないかという説がある>。日本を沈めた方の作家は冗談めかして自伝にそう書いている(『SF魂』)▼その小松左京さんが亡くなった。著作群を眺めると、女性物、歴史物から芸道小説、ルポ、文明論まで多彩の極み。作家業以外の幅広い活動でも知られたが、無論、揺るぎない柱だったのはSFだ▼該博な知識と大胆な発想で次々に作品を発表する姿に、ついた異名が「SF界のブルドーザー」。その切り開いた道を多くのSF作家が歩いた▼あの戦争への怒りが作家活動の根底にあったという。<政府も軍部も国民も、「一億玉砕」と言って、本当に…日本という国がなくなってもいいと思っていたのか。だったら、一度やってみたらどうだ>。あの『日本沈没』も、そんな思いから生まれた▼日本とは、日本人とは何かを「SF魂」で考え続けた作家は、大震災についてこう言い遺(のこ)したそうだ。「この危機は必ず乗り越えられる。日本と日本人を信じている」