アフガニスタンに駐留する米軍の段階的な撤退が始まった。テロ活動を鎮圧しながら、同国軍と警察に徐々に治安権限を移譲する戦略だが、貧しく政権の腐敗も広がる国の安定は容易ではない。
駐留米軍は約十万人。オバマ政権は来年夏までに三万三千人を撤退させる計画だ。
北大西洋条約機構(NATO)が主導する国際治安支援部隊(ISAF)も、アフガンの一部州で同国政府に治安権限を移譲している。十年に及ぶ長い戦いはようやく出口に向かい始めた。
米軍とISAFは昨年来の攻勢で、反政府武装勢力タリバンの拠点を各地で制圧した。また、タリバンと共闘関係にある国際テロ組織アルカイダのビンラディン容疑者が米特殊部隊によって殺害され、米軍縮小が可能になったと判断したようだ。
米国内の事情もある。経済低迷が続く中で巨額の戦費がかかり「厭戦(えんせん)世論」が広がる。米政府は停戦を目指し、水面下でタリバン穏健派との対話も始めた。
だが楽観はできない。米欧に支持されるカルザイ政権の幹部らは「米軍が去ってもわれわれがこの国を守る」と自信を見せるが、汚職がはびこり統治能力には疑問符がつく。タリバン支持勢力は地方軍閥や隣国パキスタンにも根を張る。米軍の攻撃に一般市民が巻き込まれ死傷する事件が絶えず、反米感情は根強い。
最も難しいのは治安維持だ。この十日間だけでもカルザイ大統領の弟や側近が射殺される事件が続いた。現金収入を得るためにケシが広く栽培され、麻薬がらみの争いも深刻だ。
アフガン政府は国軍と警察による三十万人規模の治安部隊をつくる計画で、米軍やISAFが訓練しているが、大半は農民出身の素人兵士。長年武装闘争を続けるタリバンを抑え込めるか不安は尽きない。
それでも国際社会は食料やインフラ整備の援助を続けるべきだ。日本政府はアフガン治安部隊の給与に充てる資金を提供している。非政府組織(NGO)ペシャワール会による息の長い農業支援の実績もある。各国が協力して治安確立と民生への支援を同時に進めることが、安定を実現する最も有効な方策といえよう。
国際社会が荒廃したこの国を見捨ててしまえば、内戦が拡大して「テロの温床」に逆戻りする恐れは十分にある。
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