全国の児童相談所(児相)が、二〇一〇年度に対応した虐待の通報・相談が五万件を超えた。虐待から子供たちを守り親の子育てを支えるには、向きあう態勢のさらなる充実が求められている。
五万五千百五十二件。厚生労働省が発表した相談件数は、〇九年度に比べ28・1%増えた。〇九年度は四十九人が命を落とした。
相談が増えたのは、子供の泣き声などを気にかける人が地域に増えたからだろう。関心の高まりは子供の命を救う第一歩だ。
児相は子供を守るために強い権限を与えられている。長期間子供の様子が確認できないケースでは保護者に出頭を求めることができる。一〇年度は五十件で出頭を求めた。応じない六件には再出頭を求め、それでも出頭しない二件では強制的に立ち入りを行った。
新たな権限もある。親権を盾に抵抗や介入をしてくる親に対し、親権を最長二年停止できるようになる。保護した子供について、児相所長や児童養護施設長らの判断を親より優先できる権限も認められる。関連する改正法が来年四月から施行される予定だ。
法的な“武器”は整いつつあるが、現場で保護を担う人材が足りない。全国の児相の児童福祉司数は十年前のやっと二倍だが、相談件数は三倍を超えた。
児童養護施設も事情は同じだ。ある施設長は「心に傷を負った子供たちと接するにはエネルギーが要るが、若い職員は燃え尽きてなかなか定着しない」と話す。
人材の質も高めるべきだ。児相職員が虐待を疑う家庭を訪問しても子供に会えないケースは多い。職員は干されている洗濯物や屋外に置かれた遊具の様子、近隣の話などで情報を集める。だが、児相が関わっていたのに死亡を防げなかったケースはなくならない。
親権停止期間中は、親に養育力をつけ親子がまた一緒に暮らせるように導くことも児相の役目だ。いずれも経験と専門性が重要だが、数年で異動する職員もいる。専門職として人材を確保し育成に取り組む必要がある。
虐待対策で最も重要なのは、子供がつらい目に遭う前に防ぐことだ。虐待を受けた子供は乳幼児が多い。親は未熟だったり、経済的に困窮していたり、孤立しがちだ。地域で親子が集い子育ての悩みを打ち明けられる場をつくる活動も広がっている。親子を支えるために、地域が虐待と向きあうことがますます重要になっている。
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