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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
テレビを薄型に買い替えた親類の八十翁が、「電話のメモをとる場所がのうなった」とぼやいていた。ごろりと鎮座した旧型の上にメモ用紙を置いていたらしい。茶の間の景色を変えて進んだ地上放送のデジタル化が、大詰めを迎えた▼わが国でテレビ放送が始まって58年。森羅万象の映像を送り届けたアナログ放送が明日、被災の東北3県以外で終了する。地デジの鮮明な画像、多彩な機能と引き換えに、国民は散財を半ば強いられた▼今も残念がるのは、テレビの音声をFMラジオで聴いてきた視覚障害の人たちだ。デジタル化で聴けなくなるが、ラジオ代わりに自分用の薄型テレビを買うのも悔しい。この大転換で消えるのは、「電話のメモ台」だけではない▼目に頼れぬ人の一番の情報源はテレビ音声という。ニュースもラジオ版とは臨場感が違うそうだ。障害者団体は、アナログ番組終了の正午を挟み「FMでテレビ放送の終わりを聞く集い」を東京で開く。役員曰(いわ)く「私たちからテレビが遠ざかる日です」▼総務省によると、地デジに未対応の家庭は6月末で約29万。暗転に慌てても、千秋楽やオールスター最終戦は手遅れだろう。国策で地デジ難民を生むまいと、高齢世帯への訪問相談も追い込みだ▼もっとも、テレビに往年の存在感はなく、あさってから「なし」で暮らす人もいる。インターネットの普及でメディアは激動期を迎え、古参の小紙もデジタルで発信を始めた。伝え方がどうあれ、中身の充実に精進したい。