「なでしこジャパン」が、サッカー女子ワールドカップ(W杯)を制覇した。そのしなやかでひたむきな姿は、大きな感動を生んだ。世界の壁を破った力は、社会も元気づけてくれる。
「あんな小さな子が、大きい人たち相手によく戦ってくれた」
凱旋(がいせん)帰国したなでしこジャパンの姿に、あるファンが漏らした思いだ。同じ思いの人も多いだろう。
戦いぶりは堂々としたものだった。速いパス回しと高い技術で、女子サッカー大国・米国相手に見事な試合を見せた。
なでしこたちは男子のようにプレー環境に恵まれているわけではない。一部にプロ契約選手はいるが、多くはアマチュアだ。昼間働き夕方練習に駆けつける。収入は多くはない。以前はパチンコ店に勤める選手もいたという。
海外プレー組も競技生活は楽ではなく、日本サッカー協会が、わずかだが日当を支給している。
競技生活を維持すること自体が至難の業だろう。「サッカーができる喜び」をかみしめて、ただひたむきにボールを追う姿に大きな魅力を感じた。男子と並んで女子が活躍する。これは社会全体にもいえるのではないか。
働く女性の数は昨年、二千三百二十九万人と過去最高になった。働く全人口の四割強が女性だ。働く分野も「医療・福祉」分野が初めてトップになった。病気を抱えた人や介護が必要な人に接する分野だけに、ひたむきに働く女性の活躍が期待されている。それは他の分野でも同じだろう。
ただ、女性就業率(二十五〜五十四歳)は、経済協力開発機構(OECD)加盟三十カ国中二十二位だ。就職活動中ではないが働きたい女性(二十五〜四十九歳)は、女性労働力人口の一割強、三百四十二万人いる。
女性が働きながら子育てしやすい環境整備も不十分だ。内閣府の子ども・子育て白書によると、子供のいる男女が希望する子供数は、米国も日本も二・三人と同じである。
だが、実際に希望人数まで増やすか聞くと「増やしたい」人は米国の62・7%に対し、日本は42・8%にとどまった。「育児にお金がかかる」「働きながら子育てできない」などが主な理由だ。
なでしこたちは「女子サッカーの待遇を改善したい」という共通の思いがあった。女性の潜在力を社会でどう発揮してもらうか。世界の頂点からのメッセージをしっかり受け止めたい。
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