HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 19695 Content-Type: text/html ETag: "cde7f4-4784-e4b39880" Cache-Control: max-age=2 Expires: Wed, 20 Jul 2011 22:21:07 GMT Date: Wed, 20 Jul 2011 22:21:05 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
現在位置:
  1. asahi.com
  2. 天声人語

天声人語

Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

2011年7月21日(木)付

印刷

 食通で知られた映画監督の小津安二郎は、四季を通じて鰻(うなぎ)を食した。大晦日(おおみそか)には、北鎌倉の自邸から東京・南千住の名店に仲間と繰り出し、一匹丸ごとの大串を楽しんだという。細く長くを願う年越しそばに代えて、太く長く生きようとの理屈らしい▼本日は、大量の鰻が煙の中で昇天する土用の丑(うし)。暑い盛り、丑の日には「う」のつくものがよいとする江戸期の宣伝が始まりだ。豊かな滋養は夏ばてに効くから、「年越しの蒲(かば)焼き」より理にかなう▼台風一過、暑気払いも太く長くといきたいものだが、国産の鰻は今年もお高い。東京の店頭では、立派な蒲焼きだと1尾2千円近い。稚魚の不漁で、主産地の養殖量が減ったためという▼高値にも促され、卵から育てる研究が熱を帯びている。東大などのチームは先頃、太平洋マリアナ諸島沖で約150個の卵を集めた。世界初の採取となった2年前の5倍の量で、研究に弾みがつこう▼東大総合研究博物館の「鰻博覧会」で、その卵が公開されている。小さなガラス容器の底、透明な皮膜に包まれた7粒のビーズが輝いていた。見つめるほどに、大海を漂う鰻の数を蒲焼き「発明前」に戻してやりたいと思った。展示パネルにもあるように、稚魚を乱獲してきた人間の責任である▼天然の稚魚を守る決め手が、人工孵化(ふか)の鰻に産卵させる完全養殖だ。実現は早くて5年先とされるが、繁殖の輪がつながれば、食卓に泳ぎ着く数も増す。この魚とは、細くてもいいから長く付き合いたい。

PR情報