政府と東京電力が福島第一原発事故の収束に向けた工程表を見直した。炉心溶融(メルトダウン)した原発を本当に冷温停止にもちこめるのか。最悪の事態を想定して臨機応変な対応を求めたい。
これまで政府と東電は事態を軽くみて対策を考え、後から方針を軌道修正する例が相次いだ。たとえば、原子炉の格納容器を水に浸して圧力容器を冷やす「水棺」というアイデアが典型だ。
米国の助言もあって政府と東電はこれを受け入れ、実際に作業に着手した。ところが肝心の格納容器が予想以上に損傷しており、注入した水が漏れて冷却効果が小さいうえ、漏れた汚染水の処理が新たな問題になると分かって水棺方式を断念した。
対応が失敗だっただけでなく、作業にあてる貴重な時間と労力も無駄になってしまった。
希望的観測を交えず、どこまで客観的に現状を認識できるか。それが正しい対処方針をつくる出発点である。ところが今回の見直しでも、本当に最悪の状況を想定して対処方針を作っているのかどうか疑わしい。
水棺を断念する代わりに力を入れてきたのは、汚染水をきれいにしたうえで循環させて炉心を冷やす方式だ。突貫工事で作ったシステムは稼働しているものの水漏れなどトラブルが続出し、思ったほど成果を挙げていない。
そもそも溶けた核燃料が格納容器と建屋の床を突き破って地中にめり込んでいるとしたら、はたして循環冷却方式は有効なのか。もはや冷温停止はできないとみる専門家もいる。
それでも冷やし続けないわけにはいかないとしても「来年一月までに冷温停止」という目標が極めて困難であるのは間違いない。
むしろ、核燃料に触れた地下水が高濃度汚染水となって拡散する事態を防がねばならない。見直した工程表は地下水を遮へいする壁を地中に構築する案を盛り込んでいるが、完成は三年程度の中期的課題としている。
周辺の海や地中に地下水による汚染が広がりかねない事態を考えれば、いかにも悠長だ。
福島県を訪れた菅直人首相は冷温停止を目指すステップ2を前倒しで実現する意気込みを語った。首相の楽観的発言を聞くと「深刻さが分かっていないのではないか」とかえって不安になる。
本当の現状と収束見通しはどうなのか。国民が知りたいのは、その点に尽きる。
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