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朝まで続いた熱戦に釘付けになった人も多かったろう。サッカー日本女子代表チーム(なでしこジャパン)がドイツで22日間にわたって開かれた女子ワールドカップで頂点に立った。サ[記事全文]
リビアのカダフィ政権と反体制勢力との内戦は泥沼の袋小路に陥っている。欧米は介入をエスカレートさせているが、不毛な戦闘は犠牲者を増やし、混迷を深めるばかり。ここはすべての勢力が行きがかりを捨て[記事全文]
朝まで続いた熱戦に釘付けになった人も多かったろう。サッカー日本女子代表チーム(なでしこジャパン)がドイツで22日間にわたって開かれた女子ワールドカップで頂点に立った。
サッカーでは男女、年齢別の大会を通じても初の世界一だ。女子スポーツの中でも難しいといわれる団体球技では、五輪と世界選手権で優勝したバレー、ソフトボールに次ぐ快挙。回転レシーブなど独自の技術を編み出して体格差を克服し、「東洋の魔女」と世界から称賛された東京五輪の女子バレーを思い起こさせる活躍ぶりだ。
印象深いのは、男子とは違う、その伸びやかな戦いぶりだ。相手の猛攻にひたすら耐えるだけではない。肩に無駄な力を入れず、結果を恐れず、素早いパス回しとセットプレーという武器を存分に生かした。
決勝で世界ランク1位の米国に2度のリードを許した時間帯も、重圧との戦いでもあるPK戦も、恵まれない環境でサッカーを続けてきた日々を思えば、さほど苦しくなかったのかもしれない。PK戦前の円陣には笑顔すらあった。悲壮感や根性論とは無縁の、スポーツの原点である「プレーする喜び」が彼女たちの全身からあふれていた。
そんな姿に日本中が熱狂したのは、大震災以降の重苦しさのなかで、人々がなでしこの快進撃に希望や期待を重ね合わせたからだろう。一瞬でも苦しさを忘れ、勇気を与えられた人は多かったに違いない。
今大会は女性スポーツ大会の発展という意味でも節目になりそうだ。女子サッカーの歴史をひもとけば、北欧や北米などリベラルな先進国を中心に広がってきた。そこに南米やアフリカ勢が台頭し、世界のレベルは着実に上がっている。
中でも、体力任せの大味な競技スタイルだった世界の潮流に、技術という要素を加えたことは日本の大きな貢献だ。体格やスピードの差から、男子に比べおもしろさに欠けると見られがちな女性スポーツだが、力と技の組み合わせで競技の魅力はまだまだ高まるはずだ。
1試合平均約2万6400人という観客動員数もこのことを裏付けている。女性のスポーツの興行面での将来的な可能性も示したのではないか。
世界から追われる立場になったなでしこは、9月にはロンドン五輪予選を迎える。周囲の期待はいや増すばかりで、ときに重圧となるかもしれない。それでもドイツで見せた伸びやかさを失うことなく、再び世界にチャレンジしてほしい。
リビアのカダフィ政権と反体制勢力との内戦は泥沼の袋小路に陥っている。欧米は介入をエスカレートさせているが、不毛な戦闘は犠牲者を増やし、混迷を深めるばかり。ここはすべての勢力が行きがかりを捨て、市民の安全を守るために停戦を急ぐべきである。
英米仏など多国籍軍による空爆は開始から4カ月になるが、市民への攻撃を止めるという国連安保理決議の目的はさっぱり達成されていない。戦闘の明確な前線がなく、反政府部隊や民間人に対する誤爆は増加の一途だ。しかし、カダフィ政権にとどめを刺すために空爆を軍事施設から都市部にも広げれば、決議からの逸脱になってしまう。
フランス軍は反体制派の部族に武器を空から投下したが、これは賢明な策ではない。部族社会のリビアで部族に武器を与えれば、ソマリアで起きたような収拾のつかない割拠状態を生む危険があるからだ。
先週トルコで開かれた欧米・中東主要国外相級会議では、8月に始まるイスラム教のラマダン(断食月)中の停戦が提案された。これまでもアフリカ連合(AU)が停戦の調停を試みた。いずれも実現していないが、国際社会は事態収拾のため改めて停戦に努力すべきだ。
反体制派は「カダフィ政権との協議に応じられない」と主張する。カダフィ大佐に国際刑事裁判所から人道に対する罪の容疑で逮捕状が出ており、その心情は理解できる。
しかし、現実は当初の「民主化実現」という理想からかけ離れ、死者数は1万人以上と言われる「内戦」へと暗転した。反政府派の拠点、ベンガジでは病院で医薬品が欠乏するなど、双方で市民の窮状が深まる。人命を守るため、カダフィ政権を交渉の当事者と認めるしかない。
仲介の労は、空爆に反対してきたAUやロシア、中国が一致して担ってほしい。合意できれば市民の安全を確保する停戦監視軍の派遣も必要だ。
欧米に反体制派を正式政府として承認を急ぐ動きがあるが、これも得策ではない。反体制派の中心はかつて強権体制を支え、その後離反した元政権幹部だ。戦乱下で暫定政府が民主化を進める保証はないからだ。
リビアの泥沼が底なしになる前に「アラブの春」の原点に戻す必要がある。市民の間から噴き出した自由と民主主義を求める非暴力の動きが、停戦後にリビアで定着するように国際社会が監視する。これが「脱カダフィ」の基盤をつくることにもなるのだ。