米空母艦載機の離着陸訓練(FCLP)の候補地に、鹿児島県西之表市の馬毛島が最有力地として急浮上しています。基地負担は減るのでしょうか。
FCLPは、戦闘機などの空母艦載機が飛行場に着陸すると同時に、エンジン出力を全開にして再び離陸することを繰り返す訓練のことです。空母の短い飛行甲板に着艦するには欠かせない訓練とされています。
米空母が神奈川県の横須賀基地から出港する際には、近くの厚木基地に置かれた空母艦載機がFCLPを行います。出港の十日以上前から始まり、昼夜を問わず騒音をまき散らすことから周辺住民の悩みのタネになっていました。
◆消えない航空機騒音
一九九三年、FCLPは太平洋に浮かぶ硫黄島に移されたものの、騒音問題はいまだに解消していません。
周辺住民が国を相手取って起こした厚木基地騒音訴訟は、国に賠償を命じる判決が第三次まで確定しました。第三次訴訟はFCLPが硫黄島に移転した後に起こされています。騒音被害は、FCLPに限らず、日常的に行われる飛行訓練そのものが原因であることを示しています。
問題解決のため、日米両政府は二〇〇六年、空母艦載機五十九機を一四年までに山口県の岩国基地へ移転させることで合意しました。岩国基地は滑走路の沖合移設によって騒音が減り、空母艦載機を受け入れる余地があるとの判断からです。
馬毛島がFCLP施設の候補になったのは、岩国移転を受けたものです。岩国から近く、日帰り訓練も可能なため米政府は賛成、西之表市は反対していますが、島を所有する東京の建設会社は用地提供の意思を表明しています。この会社の従業員以外に島民はおらず、北沢俊美防衛相は会見で「最有力地」と踏み込みました。
◆岩国移転は基地強化
岩国移転、FCLP施設の建設とも費用は全額日本持ち。米政府が不満のはずはありません。
米空母艦載機の岩国移転に反対して辞職し、出直し選挙で敗れた井原勝介前岩国市長は六月下旬、来年一月の岩国市長選挙に立候補すると発表しました。井原氏は会見で、艦載機移転の賛否を明らかにしませんでしたが、移転容認の現職との間で再度の対決となることが確実視されています。
選挙の結果、岩国移転が宙に浮くことになれば、馬毛島にFCLP施設を造る意味はなくなります。空母艦載機が厚木基地に残る場合、厚木基地から馬毛島までの距離は硫黄島までの距離とあまり変わりなく、施設を建設するのは税金の無駄遣いになるからです。
岩国移転が実現したとしても、問題は残ります。日本政府は米政府の意向を受けて「高度な専門知識や技能を有する整備は、移駐後も厚木で行う」との見解を明らかにしています。厚木基地を恒久化する道筋がみえてきました。
FCLPを終えた艦載機操縦士が空母着艦資格を得るため、実際の空母で行われる深夜の飛行試験は、引き続き厚木基地から近い相模湾沖での実施が見込まれています。いずれにしても厚木周辺の騒音が消えることはなさそうです。
米軍からみれば、岩国移転が実現すると空母艦載機が使用できる基地は厚木と岩国の二カ所に増え、FCLP施設も硫黄島と馬毛島の二カ所に増えることになります。日米で目指したはずの「基地負担の軽減」は、「基地機能の強化」にすり替わるのでしょうか。
注目したいのは、長崎県にある佐世保基地の変化です。〇六年からほぼ毎年、米空母が寄港するようになりました。近くに空母艦載機の訓練施設がないため、五日程度の滞在でまた出港していきますが、岩国基地が使えるとなれば話は別です。
艦載機を岩国基地に降ろし、佐世保で長期間滞在することが可能になります。
米政府は海軍力強化を急ぐ中国に対抗して、太平洋の空母を一隻増やし、六隻態勢としています。その一方で、空母が寄港できる海外の基地は数えるほど。地元でささやかれている「佐世保の準母港化」もあながち的外れではないようです。
◆突っ込んだ日米論議を
米軍が日本の安全や極東の平和に貢献していることは否定できません。日米安保条約は、その目的のために米軍が日本の基地を使用できると定めています。
基地を提供することは、米国の言いなりになることではありません。それぞれの基地が必要な理由と使い方について、日米間の突っ込んだ議論が必要です。
FCLP施設の候補地探しは、日本の安全保障や基地負担のあり方を問う機会でもあるのです。
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