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天声人語

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2011年7月18日(月)付

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 きょうは海の日。太平洋に臨む紀伊半島の町に生まれ育った佐藤春夫に「海の若者」という詩がある。〈若者は海で生まれた。/風を孕(はら)んだ帆の乳房で育った。/すばらしく巨(おお)きくなった。/或日(あるひ) 海へ出て/彼は もう 帰らない。〉▼〈もしかするとあのどっしりした足どりで/海へ大股に歩み込んだのだ。/とり残された者どもは/泣いて小さな墓をたてた。〉。これが全文の短い詩だ。何かの伝説をうたったのか、それとも水難の若人への鎮魂だろうか。海の豊饒(ほうじょう)と非情への想像を、胸の内にかき立てる▼終わりの2行が、海の大きさと人間の小ささを際立たせる。今回の津波の被災地で、墓石に「三月十一日」の日付を繰り返し彫る石材店主の胸中を記事が伝えていた。2万という命を、海は連れ去って返さない▼人々の思いは千々に乱れる。「海を恨んでいる人は一人もいない。これからも海と共に生きていきたい」と言う人がいる。片や「返せって海に言わないと気が済まない」と泣く人がいる▼「海を恨む気持ちはあるが恩恵も受けてきた。バカヤローと叫んだら、これで終わりにする」「どうなるかわからないけどさ、海さえあれば、何とかできる。海を相手に食ってきたんだもの。漁師は、大丈夫なんだよ」。万の人の心に万の海がある▼あの日、突然猛(たけ)った水平線。狂った水の雄叫(おたけ)び。「母なる海」という賛歌は失せ、まだ涙で海と和解できない方も多くおられよう。潮風に顔を上げる日を、願わずにいられない。

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