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牛のえさの稲わらから、高濃度の放射性セシウムが検出された問題が、福島第一原発から遠く離れた福島県南部や宮城県へと広がった。福島県南部の浅川町から出荷され、東京都や山形県[記事全文]
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)をめぐる高木義明文部科学相の発言が、波紋を呼んでいる。高木氏は昨日午前、もんじゅについて「廃止とか、単純に継続とかではなくて、全体的[記事全文]
牛のえさの稲わらから、高濃度の放射性セシウムが検出された問題が、福島第一原発から遠く離れた福島県南部や宮城県へと広がった。
福島県南部の浅川町から出荷され、東京都や山形県に流通した牛の肉からも、国の基準を超えるセシウムが見つかった。
つい先日、福島の緊急時避難準備区域内の農家の牛からセシウムが見つかり、稲わらが原因だと特定されたばかりだ。
原発から遠く、牛の出荷時の検査対象でなかった農家でも基準に触れたことで、福島県が農家に対して、牛の出荷の自粛を要請する事態に陥っている。
予想を超えた放射能汚染の広がりは、検査体制の不十分さをあらわにした。それだけに、関係者の衝撃は計り知れない。
基準を上回る放射性物質を含む食品から、消費者をどう守るのか。同時に、安全な商品を出荷し続けている生産者への悪影響を、どう防ぐのか。政府も自治体も至急、可能な限りの手を打つ必要がある。
まずは出荷された牛肉の追跡だ。個々の牛につけられる個体識別番号が公表された。小売業者や消費者も注意してほしい。
農林水産省は東北、関東の畜産農家のえさの保管状況を調べ始めたが、稲わら以外も要注意だ。福島県が打ち出した解体処理後の肉の全頭検査も、政府は支援してほしい。
「稲わら」が私たちにつきつけたのは、放射能対策の難しさであり、今後しばらくは食品に含まれる放射性物質と向き合わねばならない現実だ。
だからこそ、もっと検査体制を充実させる必要がある。「地域」と「品目」を組みあわせ、出荷前に調べる仕組みを、より広範に、より多様に実現するしかない。そのために機器や要員を拡充するのは当たり前だ。
すでに野菜や果物、牛乳、水産物、茶などに対象は広がっている。何らかの検査をしているのは東日本のほぼすべての都道県と、西日本の一部に及ぶ。
しかし、これからどんな食品にまで広がるのかは、まだ見通せない。不安を解消するには、安全で安心な商品だけが流通する環境を整えるしかない。
消費者への情報提供も、もっと工夫できる。ある品目で基準を上回ると、専門家が「相当な量を食べ続けても大丈夫」と言うことが多い。だが、そんな品目がここまで増えれば、どうしても心配は募る。
どんな組み合わせで、どれだけ食べていいのか。とくに子どもは大丈夫なのか。消費者の疑問に答えることも国の仕事だ。
高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)をめぐる高木義明文部科学相の発言が、波紋を呼んでいる。
高木氏は昨日午前、もんじゅについて「廃止とか、単純に継続とかではなくて、全体的なエネルギー政策の中で結論がおのずと出てくる」と述べた。
それが「開発中止を含め検討」と報じられたのを受け、夕方、改めて記者会見し、「中止なんて一言も言っていない」としつつ、「議論に予断は持つわけにはいかない」と語った。
未曽有の原発事故を起こし、原発依存を下げていく以上、政府がもんじゅのあり方を問い直すのは当然のことだ。
高速増殖炉(FBR)はプルトニウムを燃料にし、運転しながら燃料を「増殖」させる原発だ。この「夢の原子炉」によってエネルギーを支える構想を、核燃料サイクルとよぶ。
かつては多くの国が核燃料サイクルの実現をめざしたが、技術的な難しさ、コストの高さ、プルトニウムを扱うことによる核拡散の問題を理由に、欧米はほぼ撤退した。
日本の計画も遅れに遅れている。1970年代には「95〜2005年ごろに実用化する」という計画を描いていたが、現在の原子力政策大綱では「50年ごろまでに実用化」としている。
もんじゅは初発電から間もない95年12月に冷却材のナトリウム漏れ事故を起こした後、ほとんど稼働していない。すでに9千億円以上を投じ、停止中も1日5500万円の維持管理費がかかる。
しかも、もんじゅは原型炉であり、この次に実証炉、実用炉と続く。実証炉をだれが主体になってつくるかも未定だ。つくるとしても、もんじゅとは違うタイプになる。実用化の見通しは立たない。
日本の原子力開発の歴史において、普通の原発(軽水炉)が外国から丸ごと輸入されたのに対し、もんじゅは国産開発のシンボルだった。
しかし、もんじゅで冷却材に使われるナトリウムは水と爆発的な反応をするため、制御が難しい。事故が起きた場合の危険性は極めて高い。
私たちは13日付の社説特集「提言 原発ゼロ社会」で、核燃料サイクル計画からの撤退を求めた。もはや巨額の予算をかけてFBRの開発を進める意味は乏しい。FBRはあきらめ、もんじゅは廃炉にすべきだ。
FBR時代が来ない以上、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理事業も、根本的に見直さなければならない。