福島県南相馬市から出荷された汚染肉牛の肉が、市場に出回ってしまった。放射性物質の検査に漏れがあった。生産地の風評被害を防ぎ、消費者が安心を得るには徹底した検査が最優先だ。
南相馬市の畜産農家が出荷した肉牛から、基準を超える放射性セシウムが検出された。
食肉処理を行った東京都がサンプル検査で見つけた。最初に汚染が判明した十一頭は肉が保管されていたが、後の判明分六頭のうち四頭は、関東や愛知県などで消費されていた。
幸い一度食べただけでは健康への影響はほとんどないレベルだ。
福島県は、緊急時避難準備区域で飼育された肉牛の出荷には、体表面の全頭検査を実施していた。この検査では今回、放射性物質は検出されていなかった。後で汚染されたわらを飼料にしていたことによる内部被ばくと分かった。
国は三月に原発事故前に刈り取った飼料を使うよう指導したが、福島県は飼料管理については畜産農家への聞き取りだけ実施した。鹿野道彦農相も福島県も対応の甘さを認めたが、当然だ。
出荷した畜産農家は「震災後に物流が滞り、飼料が入手できなかったので与えた」という。事情は分かるが、一畜産農家がルール違反したことで風評被害が広がり、生産地全体に影響を及ぼしたことは重大だと受け止めるべきだ。
原発事故を乗り越えるために、生産地全体で協力することが求められている。畜産農家同士で飼料の融通ができなかったのか、今後検討してほしい。
福島県は、県内で解体処理される肉の全頭検査の検討を始めた。だが、検査能力には限界がある。「検査機器は高価で県には六台しかなく、野菜なども検査しているため牛肉検査に思うように使えない」(県畜産課)のが実情だ。出荷先の自治体はサンプル検査を実施しているが、検査態勢が不十分なのは同じだろう。
牛海綿状脳症(BSE)問題では法が整備され、全頭検査が実施されている。検査で安全に加え、消費者は安心も得られ消費も回復したのではないか。全頭検査のモデルになる。
鹿野農相と細川律夫厚生労働相は十二日、全頭検査の支援を表明した。地元農業団体からも検査実施を求める声が上がっている。生産地を守るためにも、全頭検査の態勢整備に努めるべきだ。
この記事を印刷する