池上本門寺にほど近い東京都大田区に、大相撲尾上部屋の鉄筋四階建てのビルが完成したのは昨年六月のことだ。把瑠都が念願の大関に昇進した直後だった▼体重二七〇キロを超える最重量力士として人気者だった山本山をはじめ関取も多かった。付け人やちゃんこ番が足りないほどの隆盛ぶりは「好事魔多し」のことわざの通りだった▼八百長問題で、幕内経験者の境沢、山本山ら三人が引退させられ、尾上親方(元小結・浜ノ嶋)も降格した。悪いことは重なる。親方は酒気帯び運転で摘発され、年寄に十年据え置かれることに。大田区初の相撲部屋を応援しようと、商店街などで盛り上がっていた空気も、しぼんでしまった感じだ▼大相撲名古屋場所はきょう、初日を迎える。二十五人の力士や親方が土俵から追放された八百長問題で三月春場所は中止。五月の技量審査場所はテレビ放映のない無料公開だったため、半年ぶりの通常開催だ。地に落ちた信頼は、土俵の上で取り戻すしかない▼力士は不思議な存在だ。先月四日から五日間、震災で甚大な被害を受けた東北三県の被災地十カ所に横綱白鵬らが巡回慰問に訪れたが、合わせて約一万二千人もの人たちが笑顔で待ち構えていた。野球やサッカーの選手の慰問とは何かが違う▼それが、「国技」が持つ伝統の力なのかもしれない。看板に泥を塗ることはもう許されない。