HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 32061 Content-Type: text/html ETag: "85ab28-5ea7-f6033ac0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Thu, 07 Jul 2011 22:21:07 GMT Date: Thu, 07 Jul 2011 22:21:02 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
またひとり、大臣が辞意を口にした。これでは、学級崩壊ならぬ、内閣崩壊である。こんどは海江田万里経済産業相だ。きのうの国会で「いずれ時期が来たら責任をとらせていただく」と[記事全文]
うまく民意を演出すれば、原発の運転を再開できるとでも思ったのだろうか。定期検査中の玄海原発2、3号機の再稼働に向け、政府が佐賀県民向けに説明するテレビ番組を、6月末に放[記事全文]
またひとり、大臣が辞意を口にした。これでは、学級崩壊ならぬ、内閣崩壊である。
こんどは海江田万里経済産業相だ。きのうの国会で「いずれ時期が来たら責任をとらせていただく」と述べた。来月、原発事故の損害賠償の枠組みを定める法律の成立のめどがつくころを念頭に置いているようだ。
松本龍復興担当相が就任9日で辞めたばかりだ。
内閣が直面する2大課題は、震災対応と原子力政策である。その2人の看板大臣が相次いで退場していくことになるのは、政権にとって極めて異常かつ深刻な事態というほかない。
海江田氏は先月、原発の「安全宣言」をし、佐賀県を訪れて「安全性は国が責任を持つ」と説明した。だから、玄海町長は原発の運転再開を認めた。
東日本大震災のあと、停止中の全国の原発のなかで初めて、玄海原発が再稼働する可能性が生まれていた。
ところが、菅直人首相が新たに安全性評価(ストレステスト)の実施を指示し、安全を再確認する姿勢に転じたため、玄海町長は容認を撤回した。
海江田氏は、こうした地元の混乱の責任をとるという。
あの事故のあと、早々と安全を宣言することに無理があった。海江田氏がもし、メンツをつぶされたことに腹を立てているなら、情けないの一言だ。
だが、原発再稼働という喫緊の課題すら、閣内の意思疎通が欠けていた現実の方が驚きだ。
責任は首相にある。安全宣言の前に海江田氏を押しとどめ、ストレステストを指示していれば、混乱は起こらなかった。
もちろん宣言のあとでも、改めるのをためらうことはない。それにしても、まず内閣の考え方を整理してほしい。テストが再稼働の条件かどうかもはっきりしないのは、おかしい。
政策を実現するために、ともに汗をかくチームをつくるのが政治の第一歩だ。首相はそれを軽視しすぎている。今回のテストもその一例といえる。
せっかく良い方向性を示しても、進め方が下手でチームが壊れれば、政治は動かない。それは政権の終わりを意味する。
首相は赤字国債の発行を認める法律や再生可能エネルギー特別措置法の成立などの「退陣3条件」を掲げている。いずれも必要だと私たちも考える。だから、速やかに3条件を満たすことを与野党に求めてきた。
しかし、自壊していく内閣にやりきる力が残っているのか。ここまでくると、強く危惧せざるをえない。
うまく民意を演出すれば、原発の運転を再開できるとでも思ったのだろうか。
定期検査中の玄海原発2、3号機の再稼働に向け、政府が佐賀県民向けに説明するテレビ番組を、6月末に放映した。この番組にあてて、再開賛成の意見をメールで送るよう、九州電力の幹部が自社や協力会社の社員に働きかけていた。
九電の真部利応(まなべ・としお)社長は「国の説明の信頼を損なわせた」と謝罪し、辞意を固めたという。
原発で働く人たちには当然、運転再開を願う気持ちはあるだろう。だったら堂々と意見を届ければよい。「自宅パソコンからアクセスを」などと、所属を隠させる必要はないはずだ。協力会社との力関係を考えれば、九電からの「お願い」は「命令」ではないか。
福島原発の事故以降、各地の原発周辺で暮らす人たちに、不安が大きく広がる。番組には、広告会社を通じて選ばれた7人が県民代表として参加した。テレビの前で、説明をもどかしく聞いた県民も多かったろう。
「真摯(しんし)にかつ県民の共感を得うるような意見や質問を発信」と今回の指示メールにある。
九電はなぜ、不安を持つ県民の共感を得ようと、自らが真摯な努力をせず、インチキに頼ろうとしたのだろう。
電力会社には、民意と誠実に向き合うのを避けようとする体質が、しみついてきた。
日本でも、原発の安全性を問う声が高まった1980年代以降、各地で「公開ヒアリング」が開かれるようになった。だが実際は、地元の声を形式的に聴くだけの儀式が多かった。意見陳述をした人が、電力会社に頼まれた「サクラ」だったり、傍聴人の住所を調べたら社宅の近辺が多かったり……。
電力会社や政府が力を注いだのは、巨額を費やす広報活動やPR施設づくりによって、原発は安全だし欠かせないとの見方を普及することだった。
地元・玄海町の岸本英雄町長は、政府が突然、原発安全性評価(ストレステスト)をすると言い出したことに加え、九電メール問題にも反発。いったん表明していた玄海原発の再開容認方針を撤回した。混乱が続く。
3・11の災厄の後、日本のエネルギー政策は分岐点に立つ。互いにきちんと向き合い、意見や立場の違いの中から、解を見つける熟議が必要なときだ。
電力に関心が高まり、そういう議論ができる時代になった。電力会社は社会の激変に目を開き、信頼を得て地域に生きる新しい道を歩んでほしい。