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7月7日付 編集手帳

 胸を患った石田波郷はある年の七夕を療養所で迎えた。患者たちがこしらえた七夕飾りのなかに、その二文字を見つけたのだろう。〈七夕竹(たなばただけ)惜命( しゃくみょう)の文字隠れなし〉(句集『惜命』より)◆「命を惜しむ」と読むのが普通だが、感嘆符を添えて「命が惜しい!」と読んでみるとき、短冊を書いた人の息づかいがいっそう切実に伝わってくる。恋愛成就、立身出世、商売繁盛、志望校突破…その他どんな願いごとも、命あってのことである◆今宵(こよい)、多くの人が胸の奥に飾るだろう短冊の言葉も、おそらくは「惜命」の一語だろう◆七夕に似合う童画風の詩句ではなく、いつにまして病中詠に心ひかれるのは、あまりに多くの死に接したあとだからかも知れない。波郷には、病む胸を詠んだ落雷の句もあった。〈雷落ちて火柱見せよ胸の上〉(句集『病雁(びょうがん)』より)。雷よ、わが胸に落ち、火柱を立ててみよ、と◆人の命というものをじっと見つめる「七夕竹」の句と、ときに萎えそうな心にカンフル剤を注射する「落雷」の句と――二つの句のあいだを行きつ戻りつしながら、震災後を何とか生きている。そんな気もする。

2011年7月7日01時30分  読売新聞)

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