ギリシャの哲学者ソクラテスは、こう語ったそうだ。<ともかく結婚せよ。もし君がよい妻をうるならば、君は非常に幸福になるだろう。もし君が悪い妻をもつならば、君は哲学者になるだろう>▼ソクラテスの妻クサンティッペといえば、夫に水をぶっかけたなどのエピソードから「悪妻」の代名詞のような女性だ。気性が激しい人だったらしいが、「青年を堕落させた」として死刑判決を受け、獄中にいた夫を前に取り乱し、泣き崩れたという▼その姿を想像すると、悪妻説は後世の創作なのではないか、とも思えてくる。結婚せよとのソクラテスの言葉も、若い妻を持ったことへの照れ隠しのようにも受け取れなくもない▼哲学者が大いに勧める結婚だが、東日本大震災の後、若い世代の結婚観に変化の兆しがあるようだ。結婚情報会社に資料を請求する若い女性が急増、婚約・結婚指輪の売り上げも増えているという▼震災に直面し、孤独感を味わった人が、信頼できるパートナーと一緒にいたいと願うのは自然な感情だろう。ためらっていた一歩を踏み出す契機になったカップルも多いようだ▼福島に住む若い女性たちからは、子どもを産むことをためらう声が伝わってくる。さすがの哲学者も「ともかく、産んでみよ」とはいえまい。子どもたちの未来と健康を真剣に考えている女性たちの声に耳を澄ましたい。