<つまり主婦という職業は、いずれは消滅すべきはずのものである>。民族学者の梅棹忠夫さんが一九五九年以降、雑誌などで発表した「妻無用論」は、社会的な論争になった▼<家事をとりおこなうための専従者が存在するということ自体が、ある意味では、未開の証拠である。文明がすすめば、そういうものは不要になる>。梅棹さんはそう言い切った▼戦後の高度成長が始まり、男性は外で働き、女性は家庭を守るという分担が定着しつつある時代だ。家電製品の普及などで、家庭での男女の役割の差がなくなると予見した論考は、時代のはるか先を行っていた▼「知の巨人」と呼ばれた梅棹さんが九十歳で亡くなってちょうど一年。かつて、主婦たちが「妻無用論」に猛反発した当時、前提になっていた家族のあり方は、大きく変わった▼昨年秋、実施された国勢調査の速報によると、総世帯に占める「一人暮らしの世帯」は初めて三割を超え、これまでトップだった「夫婦と子どもによる世帯」を初めて上回った。存命なら驚かれただろうか▼かつて歴史全集の最終巻「人類の未来」の執筆を引き受けた梅棹さんは執筆直前に「あかん。人類は滅びるしかない。大脳が大きすぎるからや」「滅びる話は書く気になれん」と編集者に言って刊行は幻に終わった。梅棹さんのこの予見だけは、外れることを祈るばかりだ。