HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 03 Jul 2011 02:06:55 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 原発の反面教師たれ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 原発の反面教師たれ

2011年7月3日

 失敗は成功の母。福島原発事故を反面教師ととらえ新エネルギー政策を模索する動きが世界に広がっています。それにこたえる責任が日本にはあります。

 「正義」をめぐる講義で、いま人気の政治哲学者M・サンデル米ハーバード大教授にならって読者の皆さんに一つの問い掛けをしましょう。「福島第一原発の放射能漏れ事故は、日本を人類の反面教師にしたのか。それとも模範生にするチャンスを与えたのか」

 東日本大震災直後に被災者たちが見せた「忍耐強さ」「冷静さ」「思いやり」などに世界各国から称賛の声が寄せられました。

◆事故で領土が減った

 大震災をきっかけに日本永住を決意した日本文学研究者のドナルド・キーン米コロンビア大名誉教授は「日本人の姿勢は立派だ。震災後、日本はさらに立派な国になるだろう」といっています。

 だが、こうした称賛も福島原発事故の処理が長引くにつれ「日本の対応は本当に大丈夫か」との見方に変わりました。ドイツ、スイス、イタリアが相次ぎ「脱原発」に転じたのも、福島の事故を反面教師と認識したからにほかなりません。アジアでも二〇二〇年の原発稼働を見込んでいたタイをはじめフィリピン、マレーシアなどが原発慎重論に傾斜しました。

 カタルーニャ国際賞の受賞あいさつで作家の村上春樹氏は「日本が長年誇ってきた『技術力』神話の崩壊と同時に、日本人の倫理と規範の敗北でもある」と断じました。広島、長崎の被爆体験と違って「日本人自身がお膳立てして、自らの手で過ちを犯し、我々自身の国土を損ない、我々自身の生活を破壊した」との自己批判です。小沢一郎民主党元代表は「もう原発周辺の被災地には人が住めない。日本の領土があの分減った」ことを菅直人首相への退陣要求の一つに掲げています。

◆求められる二つのC

 計画的避難区域となった福島県飯舘村を村役場の移転前に訪れましたが、自分たちの家屋も田畑も家畜も、美しい阿武隈高地も、すべて健在なのに、放射能汚染のために古里を放棄しなければならない村民たちの無念さと怒りがひしひしと伝わってきました。

 日本がこうした「反面教師」状態から脱して「模範生」になるためには何が必要でしょうか。

 コミュニケーション(伝達)とコンテンツ(中身)。二つのCが欠かせません。目途が立たない放射能汚染水の処理を含め東電側に不利な状況も内外に明らかにすること。3・11以来の東電や首相官邸などの発表が迅速かつ全面的に信頼がおけるものだったら世界に広がった風評被害をはじめ「日本への信頼度」低下は、もっと防げたに違いありません。

 科学者の間では原発事故のデータを世界が共有することこそ次の事故防止への「教材」になるとの認識が強まっています。軍事機密とは違うのですから公開第一、つまり、とことん「原発の反面教師」に徹することが日本への信頼回復にもつながるのです。福島原発の事故調査・検証委員会の畑村洋太郎委員長は「毎月の委員会を公開し、英語の同時通訳をつける」意向を示しましたが、大いに歓迎したいところです。

 問題はもう一つのCです。コミュニケーション面での改善が図られても、伝達する中身、コンテンツが充実しているかどうかです。

国際的コンサルティング会社CNC AGのJ・レゲビー日本法人社長は経済広報センターの講演で「海外から見ると、菅首相が力強いメッセージを出せないでいる」とコメントしました。米国紙の東京特派員も「被災者は現場力が弱い政治家に裏切られているのではないか」と被災地を取材した感想を漏らしました。

 外国人からもこう見えるのは明らかに菅政治のコンテンツが明確でないからです。「浜岡原発はノー。他の原発はイエス」では新エネルギー政策の方向が不明です。菅首相は原子力発電をここ十年程度で卒業する過渡的エネルギーと明確に規定し、原発に代わる新エネルギーへの青写真と実現過程を内外に示すべきです。それ以外に日本が安全最優先型社会のトップランナーになる道は残されていないのではないでしょうか。

◆二本松「戒石銘」の教え

 爾俸爾禄(なんじのほうなんじのろくは)

 民膏民脂(みんこうみんしなり)

 下民(かみん)易虐(しいたげやすきも)

 上天(じょうてん)難欺(あざむきがたし)

 飯舘村から遠くない同県二本松市の霞ケ城公園に立つ「戒石銘」の碑。江戸時代に二本松藩主が武士への戒めとして建立したものです。「君たちの報酬は民の脂汗の賜物(たまもの)。感謝の気持ちを忘れ民を虐げたら必ず天罰を受けるだろう」。いまほど国民の暮らしと安全を最優先する政治が求められているときはありません。

 

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