菅直人首相の退陣騒動には、あきれました。その陰で東京電力・福島第一原発では恐ろしい事態が進行しているようです。政治は何をしているのか。
民主党政権になって、民主党の有力政治家が「辞めるのやめた」と開き直るのは、これで何回目になるのでしょう。
鳩山由紀夫前首相は政権を退陣した後、衆院総選挙には出馬せず、政界から引退する意向を表明しました。ところが、しばらくすると引退を撤回し、今回の菅退陣騒動では決定的局面で首相に引導を渡す役割を果たしました。実際には、渡し損なったのですが。
◆相次いだ「辞める」発言
首相は代議士会で「若い世代に責任を引き継ぐ」と述べ、四国お遍路の話まで持ち出して退陣を語ったのに、衆院で内閣不信任案が否決されると、あっという間に態度を翻してしまいました。
ずるずると退陣の時期を明言せず、通常国会をできるだけ引き延ばそうとした。たしかに、東日本大震災や原発事故被災者の苦しみを思えば、国会議員が夏休みとは到底、納得できません。
ただ、首相の側には「仕事を続けていれば、いずれ退陣話もうやむやになるだろう」という思惑があったのは明らかです。
岡田克也幹事長や玄葉光一郎政調会長、安住淳国対委員長ら首相に退陣を迫った側も野党との協議で「首相が退陣時期を明らかにしなければ役職辞任」を口にしていたようです。
野田佳彦財務相は国会で「私が首をさし出して、それがなる(公債発行特例法案が成立する)なら、そうしてもいい」と語っています。辞任問題が沸騰していたタイミングを考えると、この発言も菅首相に辞任を迫る思惑絡みだったとみていいでしょう。
◆地面にめり込む核燃料
菅首相は依然、辞める気配がありません。それどころか、次々とハードルを上げて、この調子では秋から作業が本格化する二〇一二年度予算編成さえ自分がやると言い出しかねない雰囲気です。
政治家の出処進退は国民の信頼感と表裏一体です。いざとなったら自分が責任をとる。政治家がそんな断崖絶壁の覚悟で決断し、行動すると信じているからこそ、国民は政治家に日々の判断を委ねている。そう思います。
ところが、今回の退陣騒動で辞任した政治家はいたか。衆院議院運営委員会理事だった松野頼久議員ただ一人が辞表を提出。首相も幹事長も辞めていません。
「大震災の最中に政争とは」という嫌悪感とともに、政治家の言葉のいいかげんさに多くの人々がうんざり感を抱いています。「辞める」と口にした政治家たちが国会で議論したところで「何をいまさら」という思いなのです。
目をそむけたくなるような永田町の現実がある一方、フクシマに目をやれば、原発の状況は依然、楽観を許しません。
原発の危険性に一貫して警鐘を鳴らしてきた京都大学の小出裕章原子炉実験所助教は「溶けたウランの塊が格納容器の底をも破り、建屋のコンクリートの土台を溶かしつつ、地面にめり込んでいる」と指摘しています。
政府と東電は当初「燃料が一部損傷している」と発表し続けました。その後メルトダウン(炉心溶融)と訂正し、圧力容器を破るメルトスルー(溶融貫通)の可能性も認めています。
レベル7への事故評価引き上げといい、初めは事態を軽く説明し、否定しがたい事実が明らかになると追認する。そんな経過を踏まえれば、映画「チャイナ・シンドローム」で描かれたように、事故は「地面にめり込む」段階という指摘を無視できません。
溶けた核燃料が地下水に触れれば、ストロンチウムなど半減期が長い放射性物質が拡散します。原子力安全・保安院は海水からストロンチウムを検出しました。地下水が高濃度汚染水となって海に流出したのかもしれません。
汚染が川や海に拡散するのを止めるには、早急に地中に遮断壁を設置する必要があります。
「地面めり込み」が起きているなら、政府・東電が目指す「冷却水循環による冷温停止」には持ち込めない。小出助教は「もはや核燃料を冷やすことはできない」と語っています。今後の工程表を左右する重大事態です。
◆現実をしかと見つめよ
事故のひどさをあおるのは慎むべきです。しかし、政府や東電の評価だけを報じて事足れりとはいきません。これまでの実績がひどすぎるからです。
政府と国会議員に声を大にして言いたい。政争はいいかげんにして、現実に目を向けよ。
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