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天声人語

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2011年6月26日(日)付

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 「刑事コロンボ」に犯人が捕まらない話がある。往年の大女優が再起をかけて夫を殺すが、脳の病で犯行を覚えていない。しかも余命は数カ月。これを知った親友の演出家が自ら身代わりになる。コロンボはうその自白を戒めつつ、「数カ月は持ちこたえてみせる」の言葉にうなずいた▼そんな泣かせる結末や鮮やかなアリバイ崩しが、浮かんでは消える。敏腕刑事を温かく演じたピーター・フォーク氏が83歳で亡くなった。晩年は認知症だったが、ファンはその姿を忘れまい▼30を前に公務員から転身、40過ぎに生涯のはまり役を得た。無精ひげ、ボサボサの髪はメーク不要。「車にレインコートにわたしのこのツラ、これだけそろってりゃ十分だ」と自伝(田中雅子訳、東邦出版)にある▼渥美清さん以外の寅さんがいないように、コロンボは氏と、日本では小池朝雄さんの声を併せて完成した。対する犯人役には男女とも大物が使われ、よんどころない事情で殺人に走る成功者たちを、時に切なく演じた▼犯人との知恵比べとは別に、ひそかな楽しみがあった。よれよれのコートの陰から、米国の上流社会をのぞき見る愉悦だ。コロンボが「名ガイド」たりえたのは、俳優の憎めない個性ゆえだろう▼「シャーロック・ホームズのB面」という能書きがお気に入りだったという。以後、「コロンボのB面」とでも呼ぶべき刑事ドラマが各国に生まれた。恐らくは満足の口笛を吹きながら、ボートをこいで霧の海に去る名優が見える。

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