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「被災地の人々と心を一つにし、全国民的な連帯と支えあいのもとで、被災地に希望のあかりをともす」。そううたった復興構想会議の提言が菅直人首相に手渡された。「地域・コミュニ[記事全文]
大震災からの復興策、税と社会保障の一体改革――。日本が直面する2大テーマをめぐる議論が節目を迎えている。いずれも問題は一つに集約されると言ってもいい。[記事全文]
「被災地の人々と心を一つにし、全国民的な連帯と支えあいのもとで、被災地に希望のあかりをともす」。そううたった復興構想会議の提言が菅直人首相に手渡された。
「地域・コミュニティー主体の復興を基本とする」「来るべき時代をリードする経済社会の可能性を追求する」といった原則を掲げ、復興への様々な処方箋(しょほうせん)を盛り込んだ。
具体策では、「減災」のためのまちづくりや産業再興について、被災地の実情に合わせた選択肢を提示している。市町村の能力を最大限に引き出す「復興特区」の活用も挙げた。21世紀の産業を育てる再生可能エネルギーの拠点を福島などで展開する案もうなずける内容だ。
提言の方向性は、私たちが求めてきたものと重なり合う。
だが、踏み込み不足に思える点も少なくない。
例えば、土地をめぐる課題だ。入り組んだ権利関係の調整といった復興の足かせになっている問題は「必要な措置を考慮しなければならない」、国などによる土地の買い上げは「難点がある」と述べるにとどめた。
手続きの迅速化に特区的手法を使うというが、もっと具体的な解決策を示して、事態を打開できなかったか。
また、被災自治体が提案を具体化する手順が見えない。どの計画を優先的に進めるべきか、どんな段取りが必要なのか、という工程表も不可欠だ。
そうでなければ、事業の着手や制度設計を省庁に委ねざるをえず、「地域主体」の原則が絵に描いた餅にすぎなくなる。
一方、漁業再生の手法として民間資金の導入による活力誘引策を盛り込んだ。村井嘉浩・宮城県知事の強い要望を採り入れたものだが、地元の漁業者に疑問や反発の声がある。
このように、実現には越えるべき課題も多いが、従来の役所主導の利害調整に一石を投じ、新たな道筋を示すことこそ構想会議が果たすべき役割だ。
五百旗頭真議長は、当初予定していた年末の最終提言を取りやめ、前倒し的に今回の提言に盛り込んだという。背景には、構想会議の設立を主導した菅首相が退陣表明したことへの危機感もあろう。事実、復興担当相の人事ひとつとっても、菅政権の腰はふらついた。構想会議の今後の役割も不透明だ。
提言は、困難な被災地の現状に向き合い、希望への道を切り開いたが、さらに深化させねばならない。私たちも復興の実行段階で既得権の調整に陥らぬよう、厳しく監視していきたい。
大震災からの復興策、税と社会保障の一体改革――。日本が直面する2大テーマをめぐる議論が節目を迎えている。
いずれも問題は一つに集約されると言ってもいい。
財源だ。
税と社会保障では、今月初めに示された政府原案が「2015年度までに消費税率を10%まで引き上げる」という目標を掲げたのに対し、民主党の調査会で異論が噴出した。
いわく、退陣表明した首相のもとで重要な問題を決めるべきではない。デフレから脱却できていないのに増税を宣言すべきでない……。そんな主張が声高に繰り返されてきた。
一体改革案を6月中に閣議決定することは、菅政権の公約である。さすがに、ここにきて前向きな意見も出始めた。
24日の総会では「増税をしたい人と、したくない人がいる。代表選の争点にすべきだ」と対立をあおるような主張が繰り出されると、「増税派のレッテル貼りはよくない」「建設的な議論をすべきだ」など、いさめる声が相次いだ。
さらに、「経済成長がないと増税しない、で本当に財政はもつのか」「民主党はチルドレンファースト(子ども第一)という理念を掲げた。財政赤字のツケを将来世代に回さず、今の大人世代が解決すべきだ」といった意見も聞かれた。
根強い増税への嫌悪感を克服できるのか。与党議員たちの本気度を注視したい。
一方、復興構想会議は25日に示した提言で、復興財源について「次の世代に負担を先送りすることなく、今を生きる世代全体で連帯し、負担の分かち合いにより確保しなければならない」と訴えた。
当面の費用は「復興債」で賄うとしても、どの税でどう償還するか。財源の見通しをつけ、提言の内容を盛り込んだ3次補正予算を早期に成立させる作業を進めなければならない。
ここも政治の出番である。
様々な政策課題が財源の壁に阻まれるのは政権交代前からのことだが、民主党政権下では財政規律がさらに緩み、今年度は戦後最悪の借金予算となった。
海外の格付け会社による日本国債の評価は厳しさを増している。社会保障改革にしろ、震災復興にしろ、増税による手当てを先送りしたままでは、市場金利の上昇を誘発し、財政破綻(はたん)の引き金になりかねない。
財源問題のために、どの政策も前に進まないのは異常だ。国民の負担増に真正面から向き合う。それが政治の責任だ。