その名の前に「ジ・エバーグリーン」と冠して彼女を呼んだ英メディアがあったのも、むべなるかなだ▼もちろん、テニスのクルム伊達公子選手のこと。引退して十二年も一線を離れていた後、現役復帰して三年余の四十歳。だが、確かに、枯れる気配も時の経過によって輝きがうせる感じもまるでない。ウィンブルドンでの躍動であらためてそれを見せつけた▼相手は、五度の優勝経験がある米国のV・ウィリアムズ選手。見る者をワクワクさせる多彩なテニスで、九歳も若いスター選手のパワーテニスを土壇場まで追い詰めた。英テレビの解説者はこう言ったそうだ。「ウィンブルドンには、いつも大会を体現するような試合が一つある。この試合がそれだ」▼一九九六年を思い出した人も多かったろう。当時の“絶対女王”グラフ選手と対戦した準決勝。1セット目は失ったが、2セット目は取り返し、流れは完全に伊達選手側。だが、ああ、そこで日没順延に▼その激闘の模様と、順延試合が日本時間の本日夜にある、と伝える東京新聞夕刊の見出しを今も覚えている。<伊達、今夜“夢の続き”>。結局は惜敗したが、日本人初の決勝という夢に日本中のファンも酔った▼ウィリアムズ戦を終えた後、不惑の名手は自分の「進化」を感じたと語っている。多分、彼女の「夢の続き」は、まだ、ずっとずっと続くのだ。