国際原子力機関(IAEA)は各国の原発が安全かどうか、専門家が定期的に評価する方策を提示した。原発の安全性をめぐっては先進国と新興国に溝がある。IAEAの指導力が問われよう。
IAEAは「核の番人」と呼ばれ、核の軍事転用監視が主な任務だ。原発の安全管理は当事国が担うのが原則だが、東電福島第一原発の事故により国際基準の強化を求める声が強まった。
IAEAは閣僚級会合を開き、二十五項目から成る声明をまとめた。各国にある原発の安全性を評価する。各国の原子力規制当局の独立性を保つ。また、原発事故の被害が国境を越えて拡大した場合に備え国際的な補償体制を確立する−などが盛り込まれた。IAEAはこれをたたき台に、一年半以内に具体策をまとめ各国に示す。
世界にはいま約四百四十基の原発があり、国際社会が安全強化に向けて第一歩を踏み出した。
IAEAは「原子力の平和利用」を掲げ、原発推進を目標にする。今回の会合も原発の「安全性を高める」ことから議論が出発している。
だが福島第一原発の事故はいまだ収拾のめどが立たず、放射性物質による汚染は広範囲に及ぶ。これまでIAEAにおける原発の議論は、経済性や温室効果ガスの削減などプラス面が前面に出ていた。今後は「原発は極めて危険性が高い」という認識を前提にした議論が必要だ。これは事故当事国としての願いである。
安全強化を目指す総論では一致したものの、各論では対立が表面化している。
既に技術を持つフランスやロシアは、地震など災害が予想される場所での原発建設には厳しい安全基準を適用するよう求めている。規制が強化されれば、自国が開発した原発プラントの輸出に有利になるという計算がみえる。
一方、原発を新設または増設したい新興国は厳しい基準が適用されれば、建設コストが増大すると警戒する。
IAEAの天野之弥事務局長は専門チームによる原発の抜き打ち検査を提案したが、これにも「原子力安全は国家の主権の問題だ」と反論が出た。
だが、原発を活用した経済成長も、安全が確保されてこそ可能になる。国際社会での議論は、常にこの原点に立ち返るべきだ。日本には福島第一の事故から得た教訓を伝えていく責務がある。
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