「絵手紙」の創始者である小池邦夫さん(70)は、津波の被害の甚大さにただ言葉を失っていた。何もできない自分への気休めもあり、地震の四日後から、被災地に住む教室の生徒らに絵手紙を描いて送った▼最初は十九人。届かないかもしれないと思っていると、次々と返信が届いた。「生きてまーす」と太い筆文字で描いた人、原発事故のために他県に避難したことなど近況を細かく伝える人…▼それなら、と五月七日までに二百九十五通を描いて送った。一日で四十通を描き上げた日もある。会ったことのない人もいたが、二百人から感激の言葉が端々にある返信が次々と届いた。道具を失った人からは、やっと描けたという喜びの声もあった▼手づくりの絵手紙が、打ちのめされた人たちの心に明かりを灯(とも)し、返事を描くことで、元気も取り戻してゆく。小池さんに届いた被災地からの絵手紙を拝見すると、趣味の域を超え、作者の人生そのものがにじみ出ているような気がした▼電子メール全盛の時代、手書きのはがきに秘められた底力である。「ヘタでいい。ヘタがいい」と言ってきた小池さんにとっても、五十年間で初めての体験だ▼東京の教室の生徒らはいま、絵手紙を貼ったうちわを被災地に送る準備をしている。季節の花や植物などの絵にさりげない励ましの言葉を添えて。一人のために元気の素(もと)を届ける。