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立ち止まる知恵もあるはずだ。沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題は、性急に進めるべきではない。だが、日米両政府はあす、ワシントンで開く外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)[記事全文]
地震と津波の被害に加え、収束が見通せない原発事故。放射線不安の広がり。人口200万のうち10万人が避難を続け、3万人以上が県外に出た。未曽有の複合災害に、福島県の人々が[記事全文]
立ち止まる知恵もあるはずだ。沖縄県の米軍普天間飛行場の移設問題は、性急に進めるべきではない。
だが、日米両政府はあす、ワシントンで開く外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)で、名護市辺野古に計画する代替滑走路の具体案に決着をつけようとしている。
自公政権時代に決めた滑走路2本の「V字案」のままでいくのか、環境に配慮して埋め立て面積を減らそうと日本側が新たに提案した滑走路1本の「I字案」とするか――。
結論を先送りしてきたが、沖縄の理解を得ぬままの見切り発車で、米国側が推すV字案を成案とする見通しだ。
北沢俊美防衛相から通告された沖縄県の仲井真弘多知事は「絵空事だ」と強く反発している。辞意を表明した菅直人首相の下の閣僚と、今月末で退任するゲーツ国防長官との間で、沖縄との関係を損ねてまで案を決めて何の意味があるのか。
問題解決どころか、さらに事態をこじらせるだけだ。
V字案であれ、I字案であれ、沖縄県と名護市が一致して反対している以上、「辺野古」は事実上無理だ。
米国では、上院の超党派の有力議員が辺野古断念を求める声明を出した。次期国防長官のパネッタ中央情報局(CIA)長官も、米議会で「何が最善で最も費用対効果が高いか見いだす努力をしたい」と答えている。
苦い現実を見据えて、打開策を探る機運は芽生えつつある。
今回の2プラス2では、普天間の移設完了目標2014年の先送りも決める。新たな期限は設けず、「できる限り早い実現を図る」とする方向だ。事態打開のメドが立たない現状ではやむをえない。
現実を直視して、普天間の固定化につながらないよう、日米両政府は態勢を立て直したうえで、真剣に仕切り直しを考えるときだ。
その際に、いかなる検討も沖縄との信頼関係の再構築が大前提になる。
その試金石のひとつになりそうなのが、米海兵隊の新型輸送機オスプレイの普天間配備問題の扱いだ。
開発段階で死亡事故が相次いだオスプレイ配備に対する沖縄県民の反発は強い。日米両政府は騒音など周辺環境への影響をはじめ、沖縄が求める情報の開示に最大限応じる必要がある。
地元の納得を得る努力を尽くすことなく配備を強行すれば、また移設問題の解決に悪影響を与えるだけだ。
地震と津波の被害に加え、収束が見通せない原発事故。放射線不安の広がり。人口200万のうち10万人が避難を続け、3万人以上が県外に出た。
未曽有の複合災害に、福島県の人々が、長く、厳しい闘いを強いられている。
県の復興ビジョンを議論する有識者の委員会が、「脱原発」を明記した基本方針案をまとめた。「原子力に依存しない、安全・安心で持続的に発展可能な社会」を築くと宣言する。
原発との決別を発信することで、風評被害や人口流出危機を乗り越えようと、委員たちは考えた。「脱原発を掲げないと、廃炉にあたる福島原発の作業員が誇りを持てない」との指摘もあった。佐藤雄平知事は提言を尊重すると表明した。
浮かび上がるのは、苦しみの中、問題を前向きに引き受けねば再生はない、という重い決意だ。「世界でローマ字のFukushimaと名指しされている。受け身では負けてしまう」と、委員の一人は語った。原案にあった原子力災害への「対策推進」という言葉も、「克服」に改められた。
放射性物質との闘いは、原発を冷温停止させた後も続く。安心と安全をどう守るか。県は放射線の住民への影響について、長期の大規模調査に乗り出す。
土壌や水の浄化も、生業を取り戻すための大きな課題だ。農地にヒマワリの種をまく除染実験が始まっている。信頼度の高い放射線環境影響評価の仕組みづくりも必要だろう。
放射線医学とかかわる医療機器産業を興す、国際研究機関を誘致する、といったアイデアが出ている。世界の知恵や資金を呼び込みたい。
基本方針案では、再生可能エネルギーの推進により、新たな社会システムを提示することも柱に据えられた。
広い県土には原発抜きでも多様な自然エネルギーの可能性がある。計画的避難区域になった飯舘(いいたて)村は、環境保全を軸にしたスローライフ提唱で知られた。地域資源を生かした地産地消・循環型の社会は、日本がめざすべきモデルではないか。
家族を含め3万人の生計を支えてきた原発に、新しい産業が代わりうるか、という難題はある。だからこそ、福島の復興ビジョン実現に、最大限の支援を惜しむまい。掲げられたことは本来、政府が中心となって発信すべきテーマのはずだ。
福島を助けようと言ってきた私たちが、逆に福島に教えられている。実は傍観者でいたことに、反省を迫られている。