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天声人語

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2011年6月19日(日)付

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 スカイダイビングで空に飛び出す高さは約4千メートルという。慣れれば至福の時だろうが、倍の高度から降りた米兵の眼下には二つの絶望が口を開けていた。海でおぼれ死ぬか、陸でなぶり殺しにされるか▼1945(昭和20)年1月、レイモンド・ハロラン氏らが乗るB29は東京上空で撃墜された。脱出時、氏は「最後の晩餐(ばんさん)」とばかり、七面鳥のサンドイッチにかぶりつく。ところが、落下傘を待っていたのは捕虜という三つ目の運命だった▼戦後、実業界で成功しても悪夢にうなされたという。取り囲んだ群衆の殺気、独房につながれたまま東京大空襲で死にかけ、動物園でさらし者にされた日々。そのままでは終われなかった▼先ごろ89歳で亡くなるまで、数奇な青春の「再訪」に努めた。苦悩を絶つべく何度も来日しては、空襲体験者や史家と交わり、記憶を癒やす。自決用の短銃を機内に忘れて、つながった22歳の命である。任務を思い出したかのように、晩年のハロラン氏は語り続けた▼「戦争には勝者も敗者もない」。故人の言葉は米映画「父親たちの星条旗」に通じる。厭戦(えんせん)気分が漂い始めた米国で、硫黄島から生還した「英雄たち」は戦費調達の広告塔にされた。彼らは戸惑い、友をのみ込んだ戦場の非道を家族にも語らなかった▼つらくて黙す人生があれば、語って再生する人がいる。時代体験といった大それた話でなくても、語れば誰かが学ぼう。親から子へと半生の苦楽を語り継ぐ、そんな父の日があってもいい。

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