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天声人語

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2011年6月18日(土)付

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 日本は四季の国ではない。梅雨という雨期のある五季の国だと、俳人の宇多喜代子さんがかつて小紙に寄せていた。たしかに、入梅から明けるまで東京の平均は43日にわたる。嫌われがちな季節だけに存在感がある▼九州では大雨が続く。首都圏も随分降りこめられた気がするが、まだこれからが長い。住宅街を歩いていたら、湿気にのって梔子(くちなし)が匂ってきた。この花はいつも、甘く強い香で存在を告げる。見ると清楚(せいそ)な白が雨の中へ開いている▼気がつけば、梅雨時に見る花には不思議と白が多い。山法師(やまぼうし)、卯(う)の花、夏椿(なつつばき)、七変化の紫陽花(あじさい)にも白は多い。そして地面に目をやれば、ドクダミが暗がりに白十字の星を散らしている▼先日は山形県のご高齢の読者から泰山木(たいさんぼく)の花が咲き始めましたと便りをいただいた。大きく開くこの花も神々しく白い。〈蕾(つぼみ)は白蝋(はくろう)/半開が白磁碗(わん)/満開時 紛(まご)うかたなき白牡丹(ぼたん)〉は泰山木を愛(め)でた堀口大学の詩の一節だ。震災から百日となる東北の被災地で、霊を慰める大輪もあろうと思う▼梅雨という五つ目の季節は、煙る雨の中に盛んな命の営みを感じる季節でもある。だが、生きものや草木の旺盛も今年はどこか色あせる。梅雨が明けても、なお原発禍の暗雲は晴れやるまい▼〈かぶとむし地球を損なわずに歩く〉と宇多さんに頂戴(ちょうだい)した新句集にあった。思えば人間以外のどの生きものも、身ひとつの潔さで一生を終えるのだ。文明の功と罪を問う剣先は今、ひときわ鋭い。雨に流せる話ではなく。

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