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北杜夫さんの「どくとるマンボウ青春記」には、古き良き旧制高校のユニークな先生が色々と登場する。ある英語教授は発音に厳しく、「イー、エー、アー」という母音の発音を、丸一学期間、生徒にやらせたそうだ▼さような先生に向かって、「dangerous(デンジャラス=危険な)」をダンゴラスと読む生徒がいるのがまた旧制高校なのだと、北さんは回想している。書けるが話せない、読めるが聞けない。日本の英語教育の、今日にいたる宿痾(しゅくあ)だろう▼批判にさらされて、文科省は「英語が使える日本人」を育てる計画を進めてきた。今春からは小学5、6年で英語が必修になった。コミュニケーション重視の一環という。訳読と文法中心で育った世代には、どこか羨(うらや)ましい▼英語なしにはグローバル経済の果実をもぎ取れないという声も聞こえる。様々な人が一家言を持ちつつの教育の舵(かじ)切りだ。その侃々諤々(かんかんがくがく)に口をはさませてもらえば、英語重視が日本語軽視を誘わないよう、気をつけたい▼第2、第3言語は道具だろう。しかし「母語は道具ではなく、精神そのものである」と、これは井上ひさしさんが言っていた。英語習得もたしかな日本語力が前提との説に、異を言う人はいまい▼振り返れば、日本人は自信喪失期に日本語を冷遇してきた。敗戦後には表記のローマ字化さえ浮上した。そして今、英語を公用語にする日本企業が登場している。ダンゴラスで笑っていられた時代が羨ましい人も、多々おられようか。