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天声人語

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2011年6月16日(木)付

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 イタリアの人々が原発に「ノー」を選択した。その報に、かの国の天才ダビンチの手記の一節が胸に浮かんだ。〈君が手にふるる水は過ぎし水の最後のものにして、来たるべき水の最初のものである〉(杉浦明平訳)。美しい言葉だと思う▼人々の触れる水は、いまや脱原発という新しい流れである。「イタリアは原発にさよならを言わなければならない」と、放言王のベルルスコーニ首相もさすがにしおらしい。だが代弁者らしき人が日本に現れた。自民党の石原幹事長である▼伊の選択を「あれだけ大きな事故があったので、集団ヒステリー状態になるのは心情としては分かる」と語った。他国の民意をヒステリー呼ばわりは失礼だが、言葉の先に日本の世論もあるなら、少し国民を侮っておられよう▼たしかに、嵐の日の決意は晴天の日には忘れられると言う。しかし福島第一原発事故で、私たちは原発の「真実」をつぶさに知った。それ以前とは違う。その意味で事故は、時代を分かつ最後の水にして最初の水であろう▼知ったことの一つに、放射能について確かなことが乏しい実態がある。行政は混乱し、住民は何を信じるかで、安心と恐怖の間(はざま)を振り子のように揺れる。「原爆・原発一字の違い」と言う。やはり人間とは容易には相容(い)れない▼〈木は自分の破滅をもって木を伐(き)るものに復讐(ふくしゅう)する〉もダビンチの手記にある。木を伐る者は人間しかいない。どこか「神の火」をあやつる後世への警告めいて、天才の言葉は響く。

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