イタリアの有権者が、国民投票による圧倒的多数で政府の原発再開方針を拒否した。ドイツに続く脱原発の意思表示だ。イタリアは地震多発国でもある。欧州からの新たな警鐘と受け取るべきだ。
イタリアは、チェルノブイリ原発事故を受けて実施した国民投票で原発撤退を一度決めている。現在、国内に原発はなく、電力の約一割を輸入している状況だ。
三年前発足したベルルスコーニ政権は、国際的な原発促進の動きに伴い原発再開を表明。二〇三〇年までに総電力の四分の一を賄う方針を掲げていた。
今回の国民投票はその是非を問うもので、94%の圧倒的多数が再開に反対した。最低投票率50%の成立要件も大幅にクリアした。東日本大震災を受けドイツに続き欧州主要国が下した判断は重い。
国民投票に対する考え方は各国各様だ。スウェーデンでは、米スリーマイル島原発事故後の国民投票に基づきいったんは一〇年末までの撤退を決めた。しかし、設問設定の曖昧さもあり政策転換の余地を残した。その後の民意の揺り戻しにあい、原発依存度は45%とむしろ増加している。
ドイツに国民投票の制度がないことはよく知られる。地域性、専門性など多岐にわたる複雑なテーマを一度の投票に委ねる是非を歴史に学んだ知恵だとされる。今回の脱原発決定までには、三十年の民意の集積があった。
イタリアの今回の決定には地震多発国という事情も作用したのではないか。南欧諸国はアフリカプレートと、ユーラシアプレートの境界線上にある。一昨年のラクイラ地震は記憶に新しい。
今後問われるのは、欧州全体としての意思だ。欧州は戦後、原子力共同体(ユーラトム)を創設して原子力平和利用へ共通の政策を模索してきた。現在、脱原発を図る各国の動きも、欧州全体として原発を容認する体制下で進められている。今後の原発政策の流れを大きく左右する欧州としての意思の収斂(しゅうれん)を早急に図るべきだろう。
東日本大震災に際しては、ローマ法王が、福島の少女の質問に真摯(しんし)に答える姿が話題となった。その法王は国民投票に際し、地球環境保護から自然エネルギー支持の立場を表明し、投票参加を呼び掛けた。
投票結果は、買春罪などで起訴されている現首相に対する審判の意味合いが強かったとはいえ、その深層にはイタリア国民の自然への畏怖があったと思いたい。
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