東日本大震災から三カ月。マグニチュード(M)9・0と、大津波に備えられなかった教訓を、近づく東海、東南海・南海地震にどう生かすべきか。
大震災後、地震研究者や防災行政当局から聞かされたのは「想定外」の言葉だった。以前から、東北・北海道太平洋岸の海溝型地震はある程度予期されたが、プレート境界付近の複数の震源で破壊が起き、M9・0となったのはたしかに“想定外れ”だった。
しかし、同じ三陸沿岸を襲い、規模やタイプが似た八六九(貞観十一)年七月の貞観地震津波と対比される今回の津波はどうか。
◆東海地震の予知とは
独立行政法人・産業技術総合研究所の海溝型地震履歴研究チームは、すでに二〇〇四年九月から、宮城県石巻市から福島県南相馬市に至る太平洋側で貞観津波が地層に残した痕跡を調べていた。
約四百カ所で九一五年噴火の十和田火山灰層下に、貞観津波が運んだ堆積物を確認した。津波は当時の海岸線から約三キロ、所によりさらに内陸部に達した。結果は大震災以前、研究所刊行物で公表、国、一部自治体にも伝えた。
せめて浸水域や避難所の設置、避難経路の見直し、住民の防災訓練や防災意識の徹底に役立てられなかったか。一部を除き地道な研究成果が注目されず、大災害を招いたのは実に残念である。
かねて切迫が懸念され、大震災による地殻変動の影響も注目されるのが、東海−四国沿い太平洋が震源域の東海、東南海・南海の海溝型巨大地震である。うち東海地震は「予知可能」とされる。
戦中、一九四四年十二月の東南海地震発生直前、静岡県森町−同県掛川市で陸軍陸地測量部(国土地理院の前身)が水準測量を行った。ところが往復二回の測量で、四ミリ以上も標高が食い違った。七〇年代以降の地震研究は、この異常を大地震の「前兆すべり」で南寄りの陸地が隆起したと解釈した。
東海地震も直前に同じような異常が起きる可能性があり、整備された観測網で検知すれば、地震の前兆かどうか判断できる−というのが予知可能の根拠である。
これに対し、名古屋大学大学院環境学研究科地震火山・防災研究センターの鷺谷威教授は当時の資料を再検討、〇四年に「測量誤差の疑いが残り大地震の前兆との解釈は困難」と結論づけた。予知の大前提への重大な疑問である。
◆巨大地震は“3連動”
東海地震で国は、微細な断層のずれなど前兆すべりを検知する体積ひずみ計など、精密な観測網を設けている。しかし、深いプレート境界が震源の海溝型地震で前兆データが得られ、適切な解釈で予知し、余裕をもって防災の対応ができるか。未知の部分は大きいとみるべきである。
机上の空論かもしれない東海地震の予知よりも、備えるべきは東海、東南海・南海地震が、同時または短時日に続いて起きる“三連動”である。
三つの地震はいずれも、駿河湾から四国西南の南海トラフと呼ぶプレート境界付近が震源域だ。震源が複数になれば、東日本大震災と類似する。地震史の研究成果によると、過去にも周期的に東海、東南海・南海地震が二つか三つ、同時または続いて起きたと確認される(図表参照)。
巨大地震の連動は起きやすく、その時は東日本大震災と同じM9・0も予想されると、真剣に警告する地震学者も多い。被災は三大都市圏を含み、人的・物的被害は大きい。海岸地域では大津波の覚悟も必要だ。
◆見直しの仕方が重要
中央防災会議は全国的な地震津波災害の見直しを始めたが、今一番の課題はその手法である。
産業技術総合研究所は、静岡県−紀伊水道沿岸でも、津波の痕跡調査を進めている。その結果はもちろん、被災想定地域の歴史を軽視せず、科学的データとして生かし、未知の部分はわからないとはっきり自覚し、新しい防災計画の作成を進めていきたい。
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