雑踏の中、メードカフェの女の子がチラシを配り、スマートフォンを売る店員の声が響く。コスプレ姿の若者が闊歩(かっぽ)するいつもの東京・秋葉原の光景。ただ、交差点のその一角だけは違っていた▼花束とジュース、千羽鶴…。立ち止まり、静かに手を合わせる人たち。死者七人を出した無差別殺傷事件の発生から、きのうで三年を迎えた▼二十五歳だった加藤智大被告は一審で死刑判決を受け、控訴中だ。「派遣切り」や彼女ができないことへのいら立ちなどが原因と報じられたが、被告は法廷で明確に否定した。「携帯電話の掲示板での荒らし行為に対するアピールだった」。語られた動機では、被害者や遺族は納得できないはずだ▼被告の人間関係を徹底的に取材した北海道大学の中島岳志准教授は「なぜリアルな友人がいたにもかかわらず孤独だったのか。なぜ(彼に)一定の共感が集まるのか」と問い掛け、心の軌跡を丁寧に解きほぐした(『秋葉原事件』)▼あの日秋葉原にいたという二十代の男性が現場で花を手向けていた。「もちろん、彼のしたことは絶対に許せない。ただ自分だって自暴自棄になったら、どんなことをしてしまうか分からない…」。人ごとではないという気持ちが伝わった▼分かったような気にならないで、なぜ事件が起きたのかを問い続けてゆく。それが風化を防ぐことになるのだと思う。