社会保障と税の一体改革を検討する政府の集中検討会議が、社会保障改革案をまとめた。制度を充実させる代わりに、財源に消費増税を盛り込んだ。だが、制度の将来像はよく見えない。
改革案は、子育てや若者の雇用支援など若い世代への支援を厚くした。非正規雇用者への厚生年金拡大、低所得者対策にも目を配り制度の充実を図る。
一方、医療や介護はサービス提供の効率化・重点化で費用削減する。制度充実による新たな費用と効率化・重点化による節約で、二〇一五年度に差し引き約二・七兆円の追加財源が必要と試算した。
年金、医療、介護、子育て支援の社会保障四経費の財源に消費税を充てると明記し、一五年度までに段階的に税率を10%にする。
四経費の公費(税)負担は一一年度の三十五兆円から、二五年度には約五十六兆円に増える。負担増は避けられないが、改革案は給付と負担のルールが分かりにくい。
消費増税を訴えるために、これまで指摘されてきた給付抑制策や制度の効率化・重点化を網羅的に盛り込んだ印象だ。年金の給付抑制は削減額も少なく不十分だ。
一五年度までの給付と負担のあり方が中心で、その先の改革の姿は見えにくい。増え続ける費用を考えると、現役世代には高齢者を支える負担が際限なく重くなるのではないかと不安になる。
北欧では、例えば重病の治療には手厚い支援がある。代わりに命にかかわらない疾患の治療は自己負担という考え方だ。給付と負担のルールに明確な理念がある。それを国民が理解しているから、負担も受け入れる。
改革案では民主党が目指す新年金制度も具体化していない。国民、厚生、共済年金の一元化の前提となる社会保障・税の共通番号制度は導入にめどがついたが、社会保険料と税を一体的に徴収する歳入庁の議論は進んでいない。
政府・与党は制度を支える理念や新年金制度など改革の大きな枠組みを示すべきだった。小手先の改革では説得力に欠ける。
社会保障は将来の安心を得る息の長い制度だ。本来、政権が代わっても持続されなければならない。改革は菅直人首相の肝いりだが、政治の混乱で次の政権が改革を引き継ぐか疑問だ。制度維持には与野党合意が必要だが協議も期待できない。この状況で消費増税だけ先行させても、国民の理解は得られない。
この記事を印刷する