菅直人首相の辞任はいつか。その時期をめぐって混乱が広がっている。曖昧な合意が政治を再び停滞させてしまう。収拾の責任はまず民主党にある。
菅内閣不信任決議案が否決されて一夜明けた三日午前、首相と早期辞任で合意したとする鳩山由紀夫前首相は「(採決)直前に辞めると言い、否決されたら辞めないと言う。そんなペテン師まがいのことを首相がしてはいけない」と、怒りを記者団にぶちまけた。
前首相が現職首相を「ペテン師まがい」とののしる異常さ、首相の辞任時期をめぐる混乱に呆(あき)れ、開いた口がふさがらない。
◆辞意で不信任否決
首相は不信任案採決に先立つ党代議士会で「(東日本)大震災に取り組むことが一定のめどがついた段階で、若い世代の皆さんにいろいろな責任を引き継いでいただきたい」と表明した。
続いて、鳩山氏が「復興基本法を成立させる。二〇一一年度第二次補正予算の編成のめどをつけていただく。その暁に、ご自身の身をお捨て願いたいと申し上げ、今のことで菅首相と鳩山との間で合意した」と、直前に行われた菅−鳩山会談の合意内容を明かした。
これらの発言は、首相が早期辞任要求を受け入れたと受け止められ、不信任案賛成の意向を示していた小沢一郎元代表や、同氏に近い議員らのほとんどが棄権か反対に回り、決議案は否決された。
問題はその時期だ。鳩山氏は六月いっぱいと主張し、首相サイドは「鳩山氏が述べた二次補正と復興基本法成立は辞任の条件ではない」(岡田克也幹事長)と反論。
首相が二日夜「放射性物質の放出がほぼなくなり、冷温停止という状態になることが原子力事故の一定のめどだ」と、事実上の続投を表明するに至ると、冒頭の鳩山氏の怒りにつながった。
◆めどは冷温停止?
福島第一原発事故の収束に向けた工程表によると、放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられているステップ2は来年一月中旬までの実現を目指す。
首相が言うように冷温停止をめどとすると、辞任時期は最長一月中旬まで延びる。
さらに、1〜3号機の全炉心溶融(メルトダウン)が明らかになり、一月中旬までの冷温停止は困難視される。原発事故の収束が遅れれば遅れるほど、首相が続投し続ける矛盾も生じる。
不信任案の可決回避のために早期辞任をにじませた首相が老練だったのか、それを真に受けた鳩山氏ら多くの民主党議員が甘かったのか。それを問うのは、この際あまり意味がない。
混乱の原因は、曖昧な「合意」をした首相と鳩山氏の双方、その内容を代議士会で確認し切れなかった民主党議員にあるからだ。
不信任案否決は、与野党が真剣に向き合い、遅れが指摘されてきた被災者対策を加速させる契機になるはずではなかったのか。
残念ながら三日行われた参院予算委員会の集中審議では、大震災・原発事故対応よりも、首相がいつ辞任するかに質問が集中した。
「政治の停滞」を脱するための辞意表明が、その時期の曖昧さから新たな混乱の材料となる。根底には、言葉を軽んじる民主党政権の風潮もある。
いつまで続投するかにかかわらず、一度辞意を表明した首相が求心力を保つのは難しい。レームダック(死に体)化が避けられない内閣が国政、外交を強力に推進することはできないだろう。
四代続いてきた一年おきの首相交代は本来望ましくないが、政治空白を避けるには一日も早い交代が国益にかなう。
ただ、首相を強制的に辞任させることは現段階では難しい。
一事不再議の原則から、不信任案は今国会中に再提出できず、首相が言及するように年末まで会期が延長されれば、次に提出できるのは来年の通常国会になる。
自民党は参院で首相問責決議案を可決させたい考えだが、不信任決議のように法的根拠はなく、無視されれば意味がない。
鳩山氏は党両院議員総会を開き早期辞任を求める方針だが、首相が受け入れるとは限らず、民主党規約に代表リコール規定もない。
◆新しい政治潮流を
とはいえ、これ以上の政治の停滞は避けねばならない。国会が国権の最高機関で唯一の立法機関という原点を再認識し、政治を「国民の命と暮らしを守る」という本務に早く戻すべきだ。混乱の発信源である民主党の責任は重い。
民主、自民両党の中堅・若手議員は大震災を機に、政策勉強会を立ち上げた。党利党略や政権延命とは無縁の新しい政治潮流を確立できれば、菅首相の居場所もやがてなくなるのではないか。
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