カラスのねぐらになっていた裏山があった。明け方からカーカーと大合唱でうるさくて仕方なかったが、震災が起きてから四日間、鳴き声はぴたりとやんだ。宮城県気仙沼市の被災地で聞いた話だ▼山の中で息を潜めていたのか、津波の来ない山奥に逃げていたのかは分からない。四日たって鳴きだしたカラスは、鳴き方を忘れてしまったかのようにグエーッという不自然な声しか出なかったという▼内閣不信任決議案がきのう、提出された。震災直後の「政治休戦」は遠い昔のことのようだ。与党の民主党から可決に必要な八十人前後の造反者が出るかどうかが焦点らしい。地震後、息を潜めたカラスが再び大合唱する姿と重なって見える。そう書いたら失礼か▼リーダーシップをはき違え、官僚の操り人形のように増税路線を行く首相にはその座に長くとどまってほしくはない。かといって新政権の展望も示さずに、ただ引きずり降ろすという野党の姿勢は無責任だ▼福島第一原発の事故は、原子力政策を国策として推進してきた自民党に最大の責任がある。十年間、連立を組んでいた公明党も同じだ。その責任に正面から向き合わない政党に未来を託せるだろうか▼不信任案を否決しても、民主党は分裂の危機だ。「王手飛車取りだ」と言った自民党幹部もいたそうだ。被災者を思いやる気持ちはどこにあるのだろう。