東京電力の原発事故で誰にどんな損害が生じ、どんな賠償がなされるべきか。国がその目安となる第二次指針をまとめた。事故は収束しておらず、被害は拡大の一途だ。救済の手を大きく広げたい。
賠償の指針作りは、文部科学省に置かれた原子力損害賠償紛争審査会が進めている。四月に第一次指針をまとめたときに積み残した課題の一部を第二弾として示した。さまざまな分野の損害を吟味して指針を順次打ち出す考えだ。
第二次指針では、農水産物の風評被害がどう救済されるかが農畜産業者や漁業者にとって気掛かりの一つだった。
高濃度の放射性物質が検出され、福島や茨城、群馬、栃木四県と千葉県三市町ではホウレンソウなど野菜の出荷が制限された。福島、茨城二県では原乳やコウナゴの出荷制限や出漁自粛があった。
この事実は重い。科学的根拠を欠いていても、同じ産地の農水産物であれば放射能汚染を心配して買い控えたり、取引を停止したりするのはごく自然だ。
審査会は風評被害を幅広くとらえ、これら地域のすべての農水産物の価格下落や取引数量の減少といった損害を風評被害による賠償の対象とした。食品としての打撃を深刻に受け止めて救済を先行させる姿勢は妥当だろう。
とはいえ、四月までに出荷制限を受けた食用の農水産物に対象を絞っている。神奈川県は五月に生茶葉の出荷自粛を求めたし、葉タバコや飼料作物にも被害が出ている。もっと目配りすべきだ。
ホテルや旅館、レジャー施設といった観光業の風評被害の賠償についても、原発事故との因果関係がはっきりしている福島県内の業者に限定した。近隣県に対して説得力を欠くといえる。
今度の指針では、国の指示で避難や屋内退避を余儀なくされた住民たちが被った精神的苦痛をどう償うかも大きな焦点だった。一九九九年の茨城県東海村での臨界事故では対象とされなかった賠償項目で、実現が期待される。
だが、損害額の算定のやり方に異論があり、持ち越された。大切なのは住民たちがどんな避難生活をしていても、帰郷のめどが立たない苦しみやつらさはみんな同じだという視点だ。
審査会は、被害救済を急ごうと矢継ぎ早に指針を出す努力をしている。ところが、肝心の賠償金を工面する枠組みの法制化が遅々として進まない。救済の先送りだけは許されない。
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