東日本大震災で部品の供給網が寸断し自動車などの輸出が激減した。一刻も早い復旧と同時に、欧州連合(EU)などとの自由貿易交渉も急ぐべきだ。立ちすくんでいては日本の産業が空洞化する。
東京電力の福島第一原発の放射能漏れを封じる。日本の最優先課題であることは言うまでもないが、併せて地震、津波、原発事故により岩手、宮城、福島三県で十一万人が職を失った現実も見据えねばならない。
日本には高付加価値部品の生産企業が全国に立地し、半導体のルネサスエレクトロニクスは自動車制御用などのマイコン生産が世界の約三割に上る。茨城県の主力工場が被災し、影響は米国や中国など世界的規模に及んだ。東北三県の中小メーカー五百社のうち二百社は操業を再開できないでいる。
四月の貿易統計はその実態を鮮明に映し出した。部品不足でトヨタ自動車などの完成品輸出が落ち込み、四千六百億円の赤字だ。日銀は「供給面での制約が和らぎ、回復経路に復していく」と展望したが、楽観は慎むべきだろう。
部品不足は世界の自動車生産を混乱させ、日本のモノづくりの底力を見せつけたものの、一方で米国の日本車販売が二十万台規模で韓国車などに市場を奪われた。いったん海外メーカーに流れると、やすやすと震災前には戻れない。 電力不足などで生産コストがかさめば、企業の海外進出を加速させて国内の産業が空洞化する。
自由貿易協定の出遅れも見過ごせない。先の日EU首脳協議は日本の医薬品などの規制緩和問題が障害となり事前交渉開始の合意にとどまった。そのEUは七月の韓国との協定発効で関税を段階的に相互撤廃する。日本製品に対しては自動車10%などの関税が継続するので競争力の低下は歴然だ。
日本は農業などへの影響を恐れ、EUや米国、中国などの巨大経済圏と協定を結んでいない。日中韓の本交渉も先送りのままだ。内向きを続ける日本の経済外交は機能不全と言わざるを得ない。
今月来日した中国の温家宝首相は、貿易投資促進団の日本派遣を菅直人首相に持ちかけた。首相は海外からの投資も受け入れ、中国に海産物を輸出する気仙沼漁業など被災地の復興を支えるべきだ。
内向きを戒め、海外と向き合わわなければ生産拠点や雇用の縮小が深刻化する。菅政権は貿易網の再構築に確たる道筋をつけ、積極的に海外に打って出るときだ。
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