海から遡上(そじょう)してきたアユの稚魚が、魚道で跳びはねる姿が見える季節になった。<わが影を梳(す)きてあまたの鮎上る>大山安太郎。解禁が待ち遠しいという釣りファンも多いだろう▼震災で壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市の広田湾に注ぐ気仙川は、天然アユの遡上で知られる。毎年七月一日にアユ釣りが解禁になると、たくさんの釣り人が県内外からやってくる▼津波の影響で河口付近の流れが変わってしまった。がれきが流れを阻んでいる場所もあり、例年のようにアユが戻ってくるか心配されていたが、河口から八キロほど上流で約百匹のアユが遡上しているのが先日、確認されたという▼人間が築いた多くの建物がもろくも津波に流され、その衝撃から私たちは立ち直れないでいる。しかし、自然は何も起きなかったかのように、はるか昔からの営みを取り戻している▼福島県いわき市の鮫川では、基準を超える放射性セシウムがアユから検出され来月十二日に迫るアユ漁の解禁が危ぶまれている。県内の川や湖のヤマメやワカサギからも規制値を超えたセシウムが相次いで検出されている▼いずれも福島第一原発からは三十キロ以上離れているが、土壌や森林に積もった放射性物質が川や湖に流れ込んだとみられている。夏の風物詩のアユ漁すら楽しめない原発事故の罪深さ。放射性物質はきょうも降り注いでいる。