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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
1976年にイタリア北東部で地震が起きた。このとき様々な動物が不思議な行動を見せたそうだ。ある村では猫が一斉に姿を消した。屋根裏で子育て中だった母猫は、揺れる前に子猫をくわえて畑に避難したという▼『動物は地震を予知する』(朝日選書)という本に詳しい。著者のトリブッチ氏はその地震で故郷が壊滅した。れっきとした科学者だが、目撃談に触発されて古今の動物予知を調べ上げた。科学の裏付けはともかく、妙に説得力がある▼そのイタリアでのこと、予知を誤った地震学者らが起訴されたと、先の紙面にあった。中部のラクイラで一昨年、309人が亡くなる地震が起きた。予兆らしき揺れが続いていたのに大丈夫と判断し、過失致死罪に問われた▼被災した人たちが告発したそうだ。「避難勧告があれば被害拡大は防げた」の言い分はもっともだろう。半面、技術としては未確立で、「見果てぬ夢」と言う人もいる予知である。異例の裁判として衆目を集めよう▼ガリレオの国だけに、どこかあの時代の裁判に想像が飛ぶ。いまや天空のことは遠い先の惑星の位置も、日食や月食の日時もぴたりと予測できる。なのに足元の予知は覚束(おぼつか)ない。地震はいつも、背後からの辻斬(つじぎ)りのように人を襲う▼警報が空騒ぎに終わる「オオカミ少年」と、今度のような刑事責任の板挟みでイタリアの学者は大変だ。要は情報の精度を上げ、速やかに発信せよ、に尽きようか。あれやこれや、他国の話に限ったことではなく。