HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 29691 Content-Type: text/html ETag: "bbf462-5cff-292c4400" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sun, 29 May 2011 20:21:07 GMT Date: Sun, 29 May 2011 20:21:02 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
日本の送電線ネットワークは電気の全国融通が難しい構造になっている。東日本の停電を防ぐうえで大きな障害だ。東京電力と東北電力は今夏、古い火力発電所を再開させ、他社からの融[記事全文]
日本と欧州連合(EU)が、経済連携協定(EPA)交渉に向けて事前協議を始めることで合意した。日EUのEPAは日本側が積極的に働きかけてきた。背景にあるのが、貿易自由化で[記事全文]
日本の送電線ネットワークは電気の全国融通が難しい構造になっている。東日本の停電を防ぐうえで大きな障害だ。
東京電力と東北電力は今夏、古い火力発電所を再開させ、他社からの融通を受ける。それでも東電の供給力は約5400万キロワットで、猛暑日の午後1〜4時に予想されるピーク需要の6千万キロワットに10%ほど足りないとみられる。東北電力も7%強不足するとみている。
政府は、少し余裕をみて両電力管内の工場や家庭に15%の節電を呼びかけている。簡単ではないが、しっかり協力したい。
そもそも電力会社は、ピーク時の約1割の供給余力をもっているので、日本全体ではかなりの余裕がある。なぜ電気がこんなに集まりにくいのか。
そこには日本独特の電力制度がある。沖縄以外では、9電力会社が日本を九つに分割し、地域独占で営業している。
送電網も各社が自分の管内を充実させているが、他社と結ぶ連系線の容量が極めて小さいのが特徴だ。九つの団子を細い串(連系線)で刺す「串団子型」の送電網といわれる。
北海道電力と東北電力を結ぶ連系線の容量は60万キロワット、中部電力・東京電力間は100万キロワット、中部・関西電力間が250万キロワットしかない。
今年のような大規模な電源喪失では、十分な電力を集めることができないのである。
いま、節電意識は全国に広がる。しかし、西日本の人たちが「東日本のために」と節電しても、少ししか電気を送れず、残念ながらあまり生かせない。
連系線が太ければ、解決はもっと簡単だったろう。
電気を送れない理由として、「50ヘルツと60ヘルツの周波数の変換が難しいから」と説明されることが多い。確かに9電力会社の最大電力が2億キロワット弱の日本で、東西のパイプは原発1基分の100万キロワットしかない。指摘され続けた弱点だが、電力業界は拡張してこなかった。
ただ、ここだけが特別ではなく、どこの連系線も細い。電力各社はもっぱら独占する管内の安定供給をめざしてきた。
菅直人首相は自然エネルギーの大幅増加を表明した。そんな分散型の電力を集めやすくし、全国で互いに融通できる送電網が要る。50ヘルツと60ヘルツの将来の統一も検討すべきではないか。
だが、発電所と送電線の両方をもつ会社が地域で独占的に営業していては、こうした動機は働きにくい。首相が先に示した「発電と送電の分離」を考える価値はここにもある。
日本と欧州連合(EU)が、経済連携協定(EPA)交渉に向けて事前協議を始めることで合意した。
日EUのEPAは日本側が積極的に働きかけてきた。背景にあるのが、貿易自由化で先を行く韓国の動きだ。韓EU間では7月に自由貿易協定が暫定発効する。EUは乗用車の輸入に10%、薄型テレビには14%の関税をかけているが、韓国からEUへの輸出は5年かけて関税がゼロになる。日本の経済界は危機感を強め、EUとの交渉を政府に求めてきた。
EU側は慎重だった。しかし東日本大震災を受け、EU側の一部の首脳から「EPAも日本復興への支援になるのでは」との声が出て、事前協議入りにこぎつけた。
このチャンスを生かさない手はない。EUは世界経済の4分の1を占める最大の経済圏だ。自動車などの主要産業で韓国勢に後れを取ると、日本経済への影響は小さくない。政府は攻めの姿勢で協議を急いでほしい。
当然のことながら、通商交渉は双方にメリットがなければ進まない。EU域内の製造業は日本製品の流入増を警戒しており、協議は難航も予想される。日本が実を取るには思い切った譲歩も必要だろう。
EUは日本が設けている基準・認証などの非関税障壁の撤廃、政府や鉄道・航空といった公益企業による調達分野での参入拡大を求めている。いずれも規制のあり方がからむ。
政府は4月、130項目余の規制・制度改革を閣議決定した。酒類の卸売業免許の要件や自動車整備工場の面積制限を緩和するなど、EU側の関心にこたえた項目もあるが、いかにも小粒だ。3月には規制仕分けを実施したが、大震災が起こったこともあり、議論は低調だ。
規制の緩和・撤廃は、低迷が続く日本経済に活力を取り戻すカギの一つでもある。EUとの協議に合わせて、検討作業を再開しなければならない。
日本の消費者がよい商品やサービスを安く手にできる規制緩和はどんどん進めたい。関係業界が打撃を受け、支援する必要がある場合は、規制とは切り離して対応すべきである。
EUは食品安全や医療機器、医薬品分野にも関心を示す。国民の生活や生命に直結するだけに、「安さ」だけでなく「安心・安全」の観点が必要だ。
ただ、規制緩和への反対論の真の狙いが業界の既得権維持だった例も多い。ここでも「消費者の利益」から是非を考えていきたい。