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被災地で、仮設住宅の建設が続いている。国土交通省のまとめでは、これまで1万8千戸が完成したが、なお3万戸以上が必要という見通しだ。東日本大震災からの復興への一歩ともいえるだけに、希望者が早く[記事全文]
いわゆる共通番号制を導入する際の基本的な考えや制度の骨格を定めた政府の要綱が、先ごろ公表された。すべての国民に番号を割り振り、税と社会保障に関する情報を総合的に管理しようという構想だ。[記事全文]
被災地で、仮設住宅の建設が続いている。国土交通省のまとめでは、これまで1万8千戸が完成したが、なお3万戸以上が必要という見通しだ。東日本大震災からの復興への一歩ともいえるだけに、希望者が早く入居できるようにしたい。
仮設住宅とは文字通り、仮に設けられた住宅のことだ。しかし、そこで送られる暮らしまでが「仮」なわけではない。
入居期間は原則2年とされている。だが阪神大震災では、最長で5年間居住が続いた例もある。今回も同じように長期化する可能性が高い。2年、5年となれば、決して短い時間ではない。成長の早い子どもにとっては十分に長い。
こうした仮設住宅に、暮らしのための質を求める動きが出ている。岩手県住田(すみた)町では、町が独自に木造の仮設住宅を建設した。木のぬくもりが感じられる上に、結露もしにくい。一般に仮設住宅は長屋形式をとることが多いが、住田町のものは戸建てになっているため、隣家の物音も気にならない、と好評だ。
仮設としての役割を終えた後は、他の敷地に建て直し、増築したりつなげたりすれば本格的な住宅になりうる、という評価もある。どんな木造仮設を建てればよいか分からない自治体のために、設計図を用意する設計事務所も現れた。
地元の木材や技術を活用すれば地域の復興に役立つし、資源の有効利用にもつながる。
同県釜石市は、高齢者らへの生活支援を柱とした仮設住宅の建設を進めている。また、仮設ではなく一気に復興住宅へ、という試みに工学院大学が宮城県石巻市で挑んでいる。
まだ一部の動きであり、少しでも早く大量にというときに、悠長な試みをしている余裕はないという声もあるだろう。厚生労働省の告示は、仮設住宅を災害で家を失い「自らの資力では住家を得ることができないものを収容する」と位置づけるが、「収容」でいいか。現実は重要な暮らしの場となっている。その質の向上にとりくむことに、大きな意味がある。
今回の震災で、日本のどこにいても、仮設住宅のお世話になりうることをみんな痛感した。であるならば、さまざまな工夫を重ね、次に備えたい。
建築評論を手掛け、先月亡くなった多木浩二さんは著書「生きられた家」の中で、「家はただの構築物ではなく、生きられる空間であり、生きられる時間である」と記した。
この思いを、仮設住宅にもこめてゆきたい。
いわゆる共通番号制を導入する際の基本的な考えや制度の骨格を定めた政府の要綱が、先ごろ公表された。すべての国民に番号を割り振り、税と社会保障に関する情報を総合的に管理しようという構想だ。
消費増税を行うときは低所得者対策が求められるが、それには政府が個々の国民の本当の収入を知らなければならない。行政が個人情報を正確に把握すれば、例えば消えた年金問題は起きず、様々な福祉サービスの充実にもつながるとされる。
番号制への理解が広がっているのは間違いない。一方で、情報が集約・管理されることへの不安は根強いものがある。
両者をどう調整するか。プライバシー問題に詳しい識者の論議を経てまとまった要綱は、かなり練られた内容となった。
情報は省庁のデータベースで分散管理し、一元化はしない。共通番号を利用できる事務の種類や情報の提供先を一つひとつ法律や政令に書き込み、それ以外の利用は認めない――。
手間はかかるが、情報漏れがあっても被害を極力抑えることができる。妥当な措置といえよう。自分の情報をいつ誰が閲覧したか本人が調べられるようにするのも、自己情報コントロールの観点から評価できる。
さらに、個人情報の扱いを監視する独立性の高い第三者機関をつくる▽立ち入りや検査、勧告などの権限を与える▽情報を漏らした者の罰則を設ける、といったことも盛り込まれた。
住民基本台帳ネットワークとプライバシー保護の関係が争われた裁判で、最高裁が求めた安全措置を念頭に、慎重な検討がされたことがうかがえる。
かたや、こうした手当ての充実に伴い浮上する問題もある。不正利用に目を光らせ、取り締まろうとするあまり、必要な情報の流通まで滞るようになるのではないかという懸念だ。
2005年に個人情報保護法が施行された後、大きな事故の被害者の氏名が明らかにされず、心当たりのある家族に不安が広がるとか、学校の緊急連絡簿が作れないなどの過剰反応が起きた。国民生活は混乱し、法改正の話も持ち上がった。
税や社会保障に関する業務には、多くの企業や金融、医療機関が携わり罰則の網もかかる。6年前と同じ空気が広まるのは避けなければならない。
情報を守る。有効活用する。双方がそろったところに豊かな社会は成立する。その認識を共有しながら、どんな措置をとるべきか、今後の法案作りや国会審議を通じて議論を深めたい。