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天声人語

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2011年5月26日(木)付

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 だいぶ前になるが、米カリフォルニア州の砂漠デスバレーで「3万歳」の微生物が見つかった、という記事があった。3万年前の岩塩に閉じ込められていたものをニューヨーク州立大の研究チームが培養したら、元気に増殖したそうだ▼塩辛い環境を好む古細菌の仲間で、休眠状態で生き永らえたらしい。3万年前といえばクロマニョン人の世。以来、人類も長寿を願いながら、平均寿命は100歳に届かない。「死の谷」に潜んでいた単細胞に、生命の不思議を思う▼私たちも古来、塩の「延命力」を頼ってきた。信濃と二つの海を結ぶ「塩の道」を筆頭に、海から内陸へと開かれた諸街道が塩の大切さを語る。山海の幸は塩と出会い、郷土色豊かな保存食となった▼野沢菜漬け、数の子、酒盗……。古細菌ならぬわが身、過ぎた塩分は命を縮めるのだが、塩蔵品は肴(さかな)として手放せない。中でもホヤの塩辛は、節酒の妨げになって困る▼珍味を愛すればこそ、三陸の惨状には胸が痛む。養殖のカキやワカメではゼロから再出発の生産者も多い。前にも増して三陸の味が恋しいのは、何も飲み助ばかりではない。ごはん党、旅好き、通販マニアらが港ごとの名物を案じ、再起を祈っていよう▼先ごろ岩手県が試験的に網を入れたところ、幸い、漁獲の種類や量は震災前と変わらなかったと聞く。漁具は流されても、海の幸は尽きない。砂漠の命のように、「どっこい生きてる」と、食卓への道を敷き直してほしい。いつまでも終点で待つ。

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