東日本大震災では中国と韓国が積極的な援助活動をした。義援金や励ましの手紙も多く寄せられた。震災の教訓を共有し、新しい協力関係を築きたい。
東京で日中韓首脳会談が開かれ、温家宝中国首相と李明博韓国大統領はともに、復興を全面的に支援すると約束した。
前日には両首脳は菅直人首相とともに福島市内の避難所を訪れ、被災者に見舞いの言葉をかけ子どもたちには土産を手渡した。
◆原発対策は共通課題
福島第一原発の事故にはまだ収拾の道筋が見えないが、中韓首脳が福島市まで足を運んだことで、各国が抱く強い不安感はある程度払拭(ふっしょく)されるだろう。中韓首脳にとっては、自国民に向けて、福島第一の事故を教訓として原発の安全対策に取り組むと訴える狙いがあった。
日中韓首脳会談で採択された宣言では「原子力エネルギーは多くの国にとって重要な選択肢」との表現が盛り込まれた。同時に、原子力安全の確保が不可欠だと確認した。
菅政権はエネルギー政策の見直しを表明しているが、中韓両国は原発への依存度を高めており、「脱原発」はまだ視野にはない。
会談では、自然災害に対する原発の備えや、放射性物質の拡散予測について協議、連絡体制をつくることを確認した。
四月に東京電力が緊急措置として放射能汚染水を太平洋に放出した時、日本政府は米国とは事前に協議したが、中韓やロシアなど他国への告知が遅れ強い不信感を招いた。このような失敗を繰り返してはならない。
国際社会、とりわけ大気や海水汚染の影響を受ける隣国に対して、正確な情報を迅速に伝えるのは、事故を起こした国が今後も果たすべき義務である。
再生可能エネルギーの活用促進にも合意した。日本が持つ省エネ技術を活用すれば、中韓両国が原発依存度を下げる効果が期待できるのではないか。風力発電では中国が世界最大の発電能力を誇り、日本にとって参考になる。
地震、津波、原発の三重苦で「日本は怖い」というイメージが広がってしまい、風評は隣国に最も強く表れている。中韓両国は日本産品に対し広範囲の輸入規制をし、日本側の調査で放射性物質が基準内だった地域の産品まで対象になっている。
◆風評被害の沈静化急げ
首脳宣言では、日本産品の安全性について「科学的な証拠に基づき、必要な対応を慎重にとることが重要」と明記された。温首相は早速、中国が食品の輸入制限を一部緩和すると具体的に示した。
中韓からの観光客は大幅に落ち込んだ。日本で学ぶ外国人留学生は中国と韓国で全体の七、八割になるが、かなりの学生が帰国したまま戻らず、新規入学希望者も激減している。これも風評によるところが大きい。
観光客や留学生は「懸け橋」の役目をしてくれるから、日本の多くの地域は安全だと、根気強く働きかけたい。
ただ、日本社会が活気を失ったままだと、様子は違ってくる。日本企業が生産拠点を中国に移す動きが強まれば、世界各国の投資はいま以上に中国に向かうだろう。韓国の電子機器、自動車メーカーは部品や中間財を日本製に頼らず、独自生産を増やそうとするはずだ。
会談では日中韓自由貿易協定(FTA)について「日本の現在の状況に考慮しつつ」検討することが確認されたが、経済協力をしながらも競合関係にあるのが現実だ。両国とも日本の復興を、いつまでも待ってくれるわけではない。
隣国ゆえの領土問題もある。中国は艦船や航空機の尖閣諸島接近を繰り返し、韓国は竹島(韓国名・独島)の実効支配を強めている。外交の懸案は今後も続く。
それでも、大震災の後、日中韓関係は変わり始めた。中韓首脳の被災地訪問は、各国の思惑が絡む「政治パフォーマンス」の面を否定できないが、日本が積み上げた援助と協力に対する返礼の意味もあると受け止めたい。
二〇〇八年、中国四川大地震で日本の救助隊が深く黙とうしてから遺体を収容した姿は、今でも多くの中国国民が記憶している。
◆信頼深める契機に
中国は日本とは「一衣帯水」の間柄だと言い、韓国は「韓日は引っ越しができない隣人」と表現する。日本を肯定的に評価する、このような国民感情があるからこそ、物心両面の救援が届いたといえるのではないか。
経済や文化交流のほかに、大災害への備えや原発管理という国境を越えた課題が加わった。隣人の支援を生かし、相互信頼を深めて難題を解決していきたい。
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