作曲家の吉田正さん、歌手の三波春夫さん、巨人の水原茂元監督、俳優の三橋達也さん、彫刻家の佐藤忠良さん、宇野宗佑元首相…。いずれも故人だが、共通点が一つある。戦後、シベリア抑留を経験したことだ▼氷点下三〇度を超える極寒と飢餓、過酷な強制労働の三重苦に苦しめられた日本軍の将兵、軍属らは約五十七万五千人(厚労省推計)。五万五千人が異国で非業の死を遂げている▼帰国したい一心でスターリンへの感謝状を書いた人もいる。共産主義に洗脳されたと警戒され、帰国後に就職差別に悩まされた人も多い。抑留者の平均年齢は八十八歳になった▼未払い賃金の支払いを求めて活動してきた全国抑留者補償協議会(全抑協・平塚光雄会長)が、きょう三十二年の幕を下ろす。昨年六月、国が元抑留者に最高で百五十万円の特別給付金を支払う特措法が成立し、歴史的に区切りがついたことが理由だ▼十六年に及ぶ裁判闘争に敗れ、会員が激減した後、立法措置による解決を求めてきた。国会の議員会館前で座り込むなど捨て身の活動がついに国会を動かした。政権交代の数少ない成果でもあった▼スターリンの極秘指令で始まった抑留の全容はまだ解明されていない。特措法には抑留の実態調査や次代への継承が盛り込まれている。若い世代が、新しい視点でシベリア抑留を問い直すことを期待したい。