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天声人語

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2011年5月23日(月)付

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 きのうに続いて季節の話になるが、二十四節気のほかに「雑節」というのがある。「雑」と聞けばどこか軽い。だが、なかなかの顔ぶれが並ぶ。土用、節分、彼岸、二百十日、半夏生(はんげしょう)――。そして忘れてならないのが♯夏も近づく、の八十八夜だ▼歌に名高い茶摘みの季節である。この時期の茶畑は照るように美しい。作家の岡本かの子は「晴々しい匂ひがするし、茶といふよりも、若葉の雫(しずく)を啜(すす)るといふ感じ」と新茶を愛(め)でた。そんな一番茶を「刈り捨て」にする無念は、いかほどかと思う▼福島第一原発から300キロも離れた神奈川県の茶どころまで被害は及んだ。茨城、栃木、千葉、福島の各県でも茶葉から基準値を超す放射性物質が検出された。かくも晴れやらぬ五月が、これまでにあったろうか▼「これが最悪、と言えるうちはまだ最悪ではない」というシェークスピア劇の名句を、原発禍はなぞる。後から後から深刻な事態が明るみに出る。組織の欺瞞(ぎまん)の「最悪」の例として東電の姿は記憶されよう▼国の原子力安全委員会も「暗然委員会」だ。その委員長と、経産省や官邸が、今度は「言った。言わない」の内紛という。産学官の、こうした人たちの手の内で「原子の火」は灯(とも)っていたのだ▼長崎で被爆した歌人竹山広さんに一首ある。〈地上にはよき核わるき核ありて螢(ほたる)の尻のひかる夜となる〉。私たちは原発と国の未来図を、専門家の手から自分たちの手に一度取り戻す必要がある。高すぎる代償で得た一つの教訓として。

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