うまいこと言って小遣いでもせしめた息子の感慨だろうか。こんな江戸の川柳がある。<母親はもったいないがだましよい>▼子のことになると途端に愚かにもなるのが親というもので、古く、<子ゆえの闇>と。ただ、本来、敬うべき母を欺く後ろめたさが「もったいない」ににじむ辺り、かわいげがある。対して、窮地に陥った子、あるいは、それを知った第三者になりすますなどして、その親を騙(だま)すのが「おれおれ詐欺」など振り込め詐欺の手口である▼フランスの詩人ラ・フォンテーヌは、<誰でも恐れていることと願っていることをやすやすと信じる>と言ったが、子を思う親なれば、一層だろう。騙そうとする者にとっては、「不安」と「願望」は絶好の弱みになる▼「おれおれ」の類は「不安」を狙うが、これは「願望」につけこんだのか。「身長が伸びる」と効能をうたったサプリメントを無許可販売したとして、東京の会社社長が逮捕された。容疑は薬事法違反だが、詐欺まがいの指摘もある▼全国に患者が約二万人いる低身長症の治療は超高額で保険適用も限られ、子に治療を受けさせたくても受けさせられない親が多いという。専門家は「藁(わら)にもすがりたい親の心理」を弄(もてあそ)んだと、この“長身サプリ”に憤る▼赤の他人の親の<だましよい>部分につけ込んだのだとすれば、まったく、悪質極まりない。