駅のホームから看板広告を見ていると、時折にやりとするキャッチコピーが飛び込んでくる。<遠くの親戚より近くの質屋>は読んで字のごとし。<筋肉は一生ものの服>というスポーツクラブのコピーは、たるんだ体を鍛えなくちゃと思わせる▼バブル全盛時代、大手広告代理店はこんな戦略を描き、消費者の購買意欲をかき立てた。<もっと使わせろ><捨てさせろ><季節を忘れさせろ><無駄遣いさせろ><流行遅れにさせろ>…▼欲望をこれでもかと刺激し、カネを使わせる「大量浪費社会」は長引くデフレの中、遠くに退いたが、原発事故はそんな価値観が大手を振った時代にはもう戻れないことを決定的にした▼一つの場面を想像する。敗戦直前、「一億総特攻のさきがけ」として沖縄を目指した戦艦「大和」の一室で交わされた激論だ。玉砕することが確実な出撃に意味はあるのか? 君国(くんこく)のために死ぬと割り切る兵学校出身者と、もっと違う意義を求めて苦悩する学徒出身士官が殴り合いになった▼これを制したのは、臼淵磐大尉の「進歩ノナイ者ハ決シテ勝タナイ 負ケテ目ザメルコトガ最上ノ道ダ」の言葉だった(吉田満著「戦艦大和ノ最期」)▼3・11は8・15に通じる価値観の転換を突き付けている。目覚めなければならない。津波の犠牲者と原発事故で「難民」になった福島の人たちのためにも。